📎Clips📎
このクリップには名前がありません
Unknown
暗がりの中、指でまさぐって外した、留まっていた袖同士が離れた。針先は暗闇に溶けそうで溶けない。角度を何度か変えてみた、きらきら光るまで変えて、見てみた
「ちゃんと」
「はい?」
「ちゃんと、わたしたちは」
「どした? 笑 あ、え、え? なにちょっと、ダメだって!」
「ちょっと……痛いかも」
「あたりまえじゃん! もーやめてマジで」
二の腕にさわった針、ふるえるようなチクチク。まだ、もっと。
「わたしできるよ」
ねむりはわたしに倣って、右肩の袖のクリップを外した。
「できる。わたしは、わたしたちは、弱くない」
透明な肌の肉に食い込んでいく。
「やめて! やめてって! 血でてる、ねーヤバいって」
みおは泣き出す。わたしはだいじょぶって思う。ねむりの言うとおりだよ。わたしたちは弱くない。この三人なら、だいじょぶだから。
1
あなたの性格タイプは……
「迷える子羊」タイプ
・優柔不断
・とりあえず言われたことに従う
・自分に自信がない
日本で一番多いタイプ。ザ・普通。真面目で周りに気を遣えるのはいいことだけど、もうちょっと自分の意思を持ってみたらいかが?
……
……
「うっわー……」
当たってるー……。
SNSやってたら無限に流れてくるこういう診断系、いつも同じような結果出るけど。
>ほかのタイプを見る
「突っ走るイノシシ」「賢人フクロウ」「のんびり屋のウシ」「孤高のオオカミ」……。
うーん。まあ、羊、でいいのかなぁ。
スマホを横に置こうとして、やっぱやめてベッドにぽいって放った。PCを起動して「Clips」のエディター画面を開く。
>『リーディングをはじめる』
クリックする。へミスフィアに手を添える。起動を知らせる虹色の光、血管を走る血液みたいな光が表面を流れる。
あとは目をつむって、原稿料で買ったゲーミングチェアにもたれかかって、できあがっていく文章を見守りながら。
寝てもいいくらいにリラックスするのがコツ。そんな感じ。夢を見たっていい。
わたしは
ほらはじまった。黒い画面に青白いちいさな文字が浮かび上がって、
わたしはあの日、
なにをしてた?
わたしはあの日、彼女たちに出会った。
そーだよ、そう。
わたしはあの日、彼女たちに出会った。きっかけなんてまたこれが
なんだっけ。
お香の匂いがする。自分で焚いたんだった。机の上。煙がちょっとじゃまだけど、いい感じ。これ、なんだっけ。この感じ。そうだ、「たゆたう」。
スマホの通知音だった。音量ちいさくしてるのに、枕でぽふってなってて音がこもるはずなのに、たぶん無意識に聞き耳立ててる。
いったんやめよっか。
>『リーディングを中断する』『中断したいときのワンポイントアドバイス を見る』
たいしてなにも書けてないや。そのままシャットダウンした。ベッドに倒れ込んでスマホを開いた。
「あこちゃんからだ」
あかり、おつかれー🙋
ちょっと話があるんだけど(重い系じゃないよ!)
あこちゃんおつかれさまですー
べつにだいじょぶだよ!わら
なんの話ですか?
ありがとー!
うちのCMに出てたモデルの子があかりに会いたいって
ひとあかの小説のファンなんだって
え
世瞬の雑誌のCM?
そう電車に乗ってるやつ
みゃおみゃおじゃん
そうそう、宮尾実桜ちゃん
わー
ウソ、わたし、みゃおみゃおめっちゃ好きだよ。SUPER ULTRA TEENS CH.とか毎日見てるし。昨日のモスバーガー食べながらみんなの質問に答えるとかも。
学校の帰りとか空いてる日ある? 今度うち来なよ、1Fのスタバで新作おごるから
わー行く行く でもオフィスにはいかないよ?
えー! たまには社長に顔見せてあげてよさみしがってるw
2
「あこちゃん、あこちゃん……!(ひそひそボイス)」
ノートPCとにらめっこで仕事に没頭してるあこちゃん発見。目の前で小さく手を振ってみた。
「わ! びっくりした! 早くない? 早退?」
「(首を横に振る)なんかさ電車が遅延してたから、時間差で? 遅い電車が来るやつあるじゃん」
「あー」
「それで、結果早くついたの 笑」
あこちゃんの驚いた顔……かわいかったなー。写真撮りたかった。もう少ししたらあれできるかなぁ。テッド・チャンの小説に出てきた、眼球にレンズ埋め込むやつ、みたいな。いつでも大好きな人を記憶に残せればいいのに(世瞬社なら密かに開発してそうだけど)。
折り畳み傘だけ席に置いて、二人で注文しに行く。あこちゃんはもうアイスコーヒーを飲んでたけど、新作は新作で飲みたいって。ほんとかなぁ。わたしに付き合ってくれてるだけだったとしても、うれしいけど。
「攻めてるねぇ」
「攻めてる」
わたしたちがそう言うと、いつもの女の子の店員さん――大学生らしい、来月アメリカに留学するって――も、このクリーム回し込む(?)のけっこう練習したんです、って笑ってた。
ようやく落ち着いて座れたと思うとなんだかリラックスしちゃって、ここでリーディングできればいいのに、PCとへミスフィア持ってくればよかったかもって思ってた。そしたら、あれ? 入れた記憶もないのに、スクールバッグの中、へミスフィアが入ってる。
「あこちゃん見てーわたしのメンダコ」
「わ、これ最新のやつじゃん」
「ちゃんとそこのショップで買ったんだよ」
「お買い上げありがとうございます」
「笑」
「てかさ、あなたたち若者がメンダコメンダコって言うから、メンダコで通じるようになってきてるんだけど」
あこちゃんはそう言って笑う。
「だってさーへミスフィアって言いにくいし。わたしちょっと考えたの、この辺に目とかつけてさ、かわいい系のキャラっぽくしたらさ、ぜったい売れると思う」
「あーぞうさんのじょうろみたいな?」
「そう! そんな感じ!」
「意外といいかも 笑 てかさーやっぱさー、若い子の発想すごいわー」
「あこちゃんも若いじゃん」
「なめてんのか」
「きゃー」
「冗談だよー 笑」
「でもめっちゃかわいいから、制服着たら十代」
「もーやめてー」
「あ、でもちがうの、わたしあこちゃんには制服着てほしいんじゃなくてさ、今のあこちゃんがめっちゃカッコいいって思ってて、憧れなの。オフィス……オフィス、なんていうだっけ? ビジネス……系? みたいな」
「ありがとー社畜と呼んでくれ」
「だめだめ 笑」
「家に世瞬Vol.9が五百冊あります。そろそろ床抜けそう」
「なんであこちゃんちにあるの 笑」
「社長が倉庫代ケチるから 笑」
なんてことを話しつつ、いちばん聞きたかったあの話題。
「あのさ、みゃおみゃおのこと、ほんと?」
「うんマジ」あこちゃんは例の新作をまたひとくちストローで飲んでから「ひとあかクリップ集も買ってくれてるらしいよ。『帰郷の夢』とか好きだって」
「えー、わー。わたしもみゃおみゃお大好き。うるてぃー毎日見てる、ねー昨日さモスバーガー食べながら質問に答えるってやつ見た?」
「見てない」
「見て、みゃおみゃおめっちゃかわいいから」
「そーなんだ」
「CMのあともつながってたんだね、あこちゃんとみゃおみゃお」
「うん、一応さ継続して起用するかもみたいな話あるの、CM好評だったし。ゆくゆくはCMだけじゃなくてさ、うちのイメージタレントとして、みたいな。みゃおみゃおちゃん読書も好きって話だし、うちにぴったり」
「わーそれ、なんかいいかも……」
「まーだから、なんていうの、ひとあかさんとも会社として付き合ってる中で、二人でなにかさ、実際なにかやんなくてもさ、接触してお話ししてもらったりするのは世瞬社としても有意義なことなわけ。あ、でもわたしはお店セッティングするだけだから、ついてったりしないからさ、セッティングってかただカフェの場所、Googleマップで送るだけだし」
「むしろついてきてほしい」
「いやいや、若いお二人で」
「わ、どーしよー、え、ほんとだよ? ついてきてよー🥺」
なんてこと言いながら、電車に乗って家に帰って、メンダコ……じゃないや、へミスフィアを机の上のもとの位置にもどして。
その日、夜寝る前、TwoonsにDM来てた。アイコン見てびっくりした。ねむりだ。本物のねむり。
こんにちは。ひとあかさんのアカウントですよね。
しかもばれてる。このアカウントほとんど動かしてないし、ひとあかってことも明かしてないのに。わーやっぱTwoonsやめよっかな。
ねむりと言います。Clipsでねむりごとっていう連載してます。もしかしたら知ってくれてますか?(ご存知なかったらマジ誰おまって感じですよねすみません)
いや、いや。知ってるから。
突然ですが、すみません。わたしと会ってもらえませんか。一応彼氏連れてきます。疑ってるわけじゃないですけど、彼氏がどうしても、ひとあかって男疑惑もあったしとか言ってて二人だけで会うのは心配みたいなんで。
ちなわたしはクリップどおりです。高校生で、女です。
あと、ひとあかさん自分のメンダコ持ってきてもらえませんか。わたしも持ってきます。わけはそのとき説明します。
渋谷の道玄坂にキュアビルってあってそこの地下の××××…というカフェで会いたいです。
えっちょっと待って。そこってわたしとみゃおみゃおが会う約束してる場所だよ? えっもしかしてそれもばれてる?
てかなに? へミスフィア持ってきてって? どういうこと?
うわー、どう返事書こう……。
ねむりごとはClipsの中でいちばん好きな連載だし、あこちゃんにも前訊いたことあったけどねむりとは連絡取ってないって。紙の本でクリップ集出しませんかって連絡したけど、ほっといてください自分の好きなようにやりたいんでって言われたって。
それから三時間ほど、もう深夜二時になってたのに、ずっとどう返事しようか、ううん、会いたいは会いたいけど、なんでだろ? アンチっていう可能性もある。わたしとねむりの作風はぜんぜんちがうし、彼氏も連れてくるってなんか怖いし。
ありがとうございます。ひとあかです。
ねむりさんのことは知っていました。ねむりごとも毎日読んでます。インスタライブも見てます。
えっとわたしは偽称とかしてなくて、普通に17才の女なのですが、もし会うなら普通に二人でがいいです。男の人苦手なので……すみません。
と、会うとも会わないとも言わず微妙な返事をしちゃって、それが正解なのかわかんないし、もう寝ようと思った。眠剤を飲んで電気を消して、ベッドへ身体を預けた。
3
「み、みゃおみゃお……さん……え、あ、ワ?(?)」
おもわず変な声出ちゃった。なぜかっていうと、約束どおり日曜日の午後三時にわたしたちは渋谷のカフェで待ち合わせてて、先に座ってたみゃおみゃお(かわいすぎる……わたしだって五分前に来たのに先に座って待たせてしまった)に声をかけたら、横からすーっと別の女の子がフェードインしてきて、そのままみゃおみゃおの隣に座って、その女の子はねむりで、そしてねむりが、わたしを見た。
みゃおみゃおも「えっ」って言って、わたしのほうを見た。わたしも、えっ、って言った。状況がわからなすぎて。
「ねむり……さん……?」
「はい、ねむりです。ひとあかさん、みゃおみゃおさん、はじめまして、あの、ひとあかさん、座ってください……」
わたしたち三人はこうしてひとつのテーブルに着席、した。
沈黙……
どうしたらいいかわかんない……。だいたい、ねむりからはわたしがあのとおり返信して以来、なにも返信なかったから、もしかしてもういいやって思ったのかなって思ってた。だし、どこでわたしとみゃおみゃおが会うって知ったん?
「えっと」と、みゃおみゃおが切り出した。「状況を整理したいんですけど……? わたし、ひとあかさんとここで会う約束してた……してました。そしたらねむりさんが、なんか、横からシューって入ってきて、座りました」
わたしは同意を示す気持ちでうなずく。同時に、みゃおみゃおもねむりが来ることを知らなかったのだと知る。みゃおみゃおはつづける。
「ねむりさんは、えっと、ん? あれ? 二人(わたしとねむりに交互に手をかざして)は、えっと、あれ? ひとあかさんは、ねむりさんが来ること知ってました?」
わたしは全力で首を横に振った。
「し、知りませんでした……!(ひとあか)」
「でも約束したじゃん(ねむり)」
「ふぇっ!? 会うとは、言ってナ、イぃ……(?)(ひとあか)」
「約束? してたんですか……?(みゃおみゃお)」
「いや、あのしてない! してないです……!(ひとあか)」
ここでねむりの肩を持つわけにはいかない、ねむりから嫌われてでも(それもやだけど)、なんとかみゃおみゃおからの誤解? を解かないとと思ってたのに、ねむりがそんなこと言うから余計パニックになってきた。そしたらそれを察したのか、みゃおみゃおが、
「あ、あのだいじょぶ、怒ってないし……ひとあかさん、ひとあかさん……?」
たぶん紅潮してるわたしの顔を覗き込むみゃおみゃお。するとねむりは、
「あの、みゃおみゃおさん、だいじょぶです……わたしが勝手に来ただけです。わたしが勝手に相互でもないひとあかさんに会いたいってDM送って、まだ日程決まってなかったけど、ひとあかさんとみゃおみゃおさんがこの店に来ることは知ってて、あの、わたしの太客って工作員みたいなやばいやつばっかで、いろいろ情報持ってて、このお店の人とも知り合いだし。そんなわけで、二人がいるならと思って、わたしが今日勝手に来ちゃっただけです。ひとあかさんはなにも悪くないしうそついてないです」
「……」
「……」
「飲み物頼みません?」と、ねむりが言う。「ここのカフェラテおいしいです」
「あ、じゃあ……」
「いや、その……ねむりさん……」みゃおみゃおが言う。「そもそも、わたしとひとあかちゃんの会だったんですけど……だったっていうか……」
「はい、でも、その、わたしどうしても二人に、今、ここで会いたかったんです」
重苦しい空気のまま、ねむりは切り出す。
「二人とも、メンダコ持ってますか? みゃおみゃおさんもやってますよね? 前、うるてぃーで言ってた」
ねむりは黒い革のバッグのファスナーを開けて、メンダ……じゃなくてへミスフィアをさっと取り出し、自分の顔の前にかざす。ねむり小顔過ぎ。へミスフィアと同じくらいじゃん、やば! リアルねむりガチかわいい! とかって思ったりもして。
「持ってるけど?」
「ひとあかさんは?」
やば、今日も持ってきちゃった。みゃおみゃおと、もしかしたらその話になるかなって思って……。
「持ってます」
「交換しましょう」ねむりは迷いもなく言う。「えっと、つまり、ほらメンダコには固有のバイタルアドレスってあるじゃないですか。それを抽出して、平文に直してClipsの仮想サーバー内に直接入力する方法が裏技であるんです。それで一回紐づけを解いて、またつなぎなおして、そのメンダコを各自のPCに紐づけます。そしたら、たとえばひとあかさんがわたしのを使えば、わたしのクリップを作ってアップできます。ねむりごとを、ひとあかさんが書くってことです。で、わたしは代わりにみゃおみゃおさんのメンダコもらいます。みゃおみゃおさんのクリップは一般ユーザー扱いなんで匿名ですけど。で、みゃおみゃおさんはひとあかさんのメンダコをもらってもらいます。ひとあかさんのクリップをみゃおみゃおさんが書きます」「……」
「えっと……」
つまり、三人でへミスフィアをとりかえっこするってこと?
なんでそんなことを提案するのか、わけわかんなくて、みゃおみゃおと一緒に黙ってしまった。
「わかった、わかった、わかりました。やりたいことはわかった、うん」みゃおみゃおは自分に言い聞かせるように何回か頷く。「とりあえず、いきなり言われて、わたしも、たぶんひとあかちゃんも、びっくりしちゃった、から、いったんやっぱり、ほら、わたしここ来るの楽しみにしてたんです、隠れ家って感じでめっちゃ雰囲気いいし、なんか頼んでゆっくり話しましょー、ね?」
わたしたちはそれぞれ飲み物を頼んだ。
「おわびと念押しの気持ちです(ねむり)」
「えええ!(ひとあか)」
「わー!(みゃお)」
スコーン、キッシュ、クロワッサン、フレンチトースト、ワッフル……わー、食べきれないくらい並べられた。ねむりが注文してくれたみたい。わたしって単純かな。あれっもしかしてねむりっていいやつじゃん? とか思えてくる。
「わたし大食いなんで、食べきれなかったらわたし食べます(ねむり)」
「え、でもわたし、けっこう食べちゃいますよ? え、てか写真撮ろーめっちゃおいしそー(みゃお)」
「どうぞ。ひとあかさんもどうぞ(ねむり)」
実際めっちゃおいしかった。わたしたちは、ねーおいしいーとか言いながらちょっとだけ打ち解けた雰囲気を、作ろうとしてたのか、実際そうだったのかよくわかんないけど、少しずつ空気よくなってきた気もしてた。
「え、てかわたしたち、全員タメですか?」みゃおみゃおが言う。「全員高二?」
「はい」
「あ、わたしも」
「何月生まれ?」
「八月」
「あ、わたしも八月」
「え、わたしもなんだけど、うそ、じゃあもしかして全員、十七才になったばっか?」
「はい」
「わ、やば」
「えーすごいじゃん! え、てか、ひとあかちゃんそもそもはじめて見たけど、めっちゃかわいいんだけど」
「えっ、ヒィ(?)」
「ねむりさんもインライとかで見たまんま、めっちゃカッコいい」
「……いや、そ(ねむり)」
「ふふっ(みゃおみゃお)」
わー、みゃおみゃおが会話回してくれてる。てか、今、フリーズ。わたしのこと、かわいいって?
しばらくなんてことない会話をしてた。ねむりは高校行ってないって。やっぱり、だって昼間からインライやってたりとかさ。Clipsに投稿はじめたのも、配信活動はじめたのも、不登校になってからみたい。
みゃおみゃおは芸能活動と学業でめっちゃ忙しいみたい。そりゃそーだよね。でもうるてぃーのメンバーには福岡から毎日新幹線で通って撮影してる子とかもいて(それってららちゃんのことですよね? って訊いたらそうって言ってた)、わたしも負けないくらいがんばらなきゃって思ったんだって。
「Clipsをはじめたきっかけかぁ……」わたしが答える番が回ってきた。「えっと、なんか、知らないクリップが流れてきたんです、Twoonsから。枕の話」
「まくら?」とみゃおみゃおが首をかしげる。
「やわらかすぎたり、かたすぎたりして、なかなかしっくりくる枕が見つからないっていう話で、ほんとにただそれだけなんですけど、お小遣いためて買うほどでもないし、そのまま過ごしちゃおうとか、ずうっとそういう、考えごとみたいなのがつづくお話。でも最後、窓の外を見たいなぁっていうんです、その、女の子?」
「うん」
「クリップってそんなお話多いじゃないですか。オチとかなくて、ばらばらにちらばったパズルみたいな、そういうの、わたしの中にもあるのかなって」
「うん」「うん」
「わたし、なんか、普通なことがコンプレックスかもしれなくて、でもなにかで秀でたいとか、クラスでいちばんになりたいとか、かわいくなりたいとか、そういうことでもなくて、そんなときその枕の話のクリップ読んで、なんか、わたしも、普通なわたしでも、なにかあるのかなぁって、思って、わたしの中にあるお話を、引き出してみたいって。でもそういうの、変ですよね……って、なんかすでに、変……かも……」「あ、なんかわかるかも。ひとあかちゃんのこと、だんだんわかってきた。だからわたし、ひとあかちゃんのクリップが好きなのかも」
「わー、みゃおみゃおさん……」
「みおでいいよ、みゃおみゃおって名前さ、好きなんだけどさ、なんかもうお仕事の名前って感じで。なんだか最近は、ちょっとプレッシャー……えっううん、ちがうちがう、気にしないで」
ねむりはカフェラテに少しずつ口をつけながら、わたしとみゃおみゃお……じゃなくて、みおを見たり見なかったりしてる。話は聞いてるよってサインかも。
「だから、自分のクリップがたくさんの人に読まれてるってことも、公式に推してもらえて、ひとあかって名前付きアカウントになったことも、ね、なんていうんだろ……うれしいんだけど……なにか、わたしが、たくさんの人に取られちゃうかもしれないって思うと、なんか、ね? めっちゃわたし自意識過剰ですよね?」
「ううんそんなことないよー、わー、よしよし。わたし、ひとあかちゃんとそーいう話したかったんだぁ、なんだかわたしたち、急に『名前付き』になったみたいで、ちょっと怖いかもって……」
「でも、なんでみゃおみゃおさんはモデルとかやってるんですか? ひっそりと暮らしたいなら、なぜ?」
一瞬その場が凍り付いたような、ねむりの言葉。ちがうの、そういうことじゃなくてって言いたかったけど、みおは冷静に答える。
「うん、矛盾してますよね、わたしも、おかしくない? って思う。わたし、ちいさいころから子役で芸能界入ってて、それからずっとなんです……。だから、ねむりちゃん」
「ねむりでおけです」
「おっけー。ねむり。でさ、慣れてるつもりだったし、今でも芸能活動はずっと楽しい、でも、ちょっと、ちょっとずつ、ドーナツの真ん中みたいなひずみが、広がってきたような気がして、なんか怖いんです」「なるほど……ちなわたしは、責めてるわけじゃない。二人のことは、すごく好きなんです、どっちもクリップ、全部見てます。みゃおみゃおさんのは匿名だけど、工作員が特定してしまったんです。ごめんなさい。だから、ほんとはみゃおみゃおさんのことも……」
ねむりは自分のスマホの画面を見せた。黒縁メガネをかけた、髪のボリュームがやけに多くてもさもさしてる、中学生くらいの女の子? ちょっと、いやけっこう冴えない感じだけど、なんだか目元に名残が……。
「昔のわたしです、ちな整形もけっこうしてます。でも、わたしは、このころのわたしと同じなにかが、わたしの中にあるはずなんです。当時はわたしが、わたしのこと、殺したいほど憎んでたのに、なんでだろって思います。そういう話を、わたしはしたくて」
ねむりのその言葉、息継ぎが切れたときから数秒、わたしたちは待った。それから少し経ってからみおが訊ねた。
「もしかしてさ、メンダコ交換にもそんな深い意味があったりする?」
「それはわたしにもわかんなくて、でも、わたし理屈で考えちゃうことばっかりなんです。でも、大好きな親友が一人いて、わたしが地雷系はじめたころに出会って、同じコンカフェで働いてます。でもちがうんです。なんだか、わたしは、今、さっきの写真を見せれるのは、もうみゃおみゃおさんとひとあかさんだけなんです。二人のこころをもっと知りたくて、わたしはそのかわりをして。そうやって回っていくのとか、どうですか?」
4
「あ、ひととせさん」
「えりかちゃん! おつかれー。今日どこ?」
「今日Cレーンのラベラー」
「あー」
「また、肩痛くなると思う」えりかちゃんはそう言って笑う。「もっと動ける配置のほうが好きなんだけどなぁ」
朝礼では他サイトでの受傷災害のことについて社員の人から説明があった。荷物詰めすぎてバッグから溢れ落ちて、まぶたのところを切ったって。でも、殺人的なオペレーションにしてるのはそっちなんだけどなぁ。
「無理をせず、くれぐれも安全第一でお願いいたします。では、屈伸からー」
準備体操をしているあいだ、隣でえりかちゃんとおしゃべり。
「ひととせさんは今月までだっけ?」
「うん」
「そっか、まー、長くつづける仕事じゃないよ」
えりかちゃんは今年二十五才だって。あこちゃんより少し年上かぁ。この職場は毎日五十人くらいで作業するけれど、同年代とかいなくて(みんな接客業とかできるもんね、わたしとちがって)、いちばん年が近い女性が彼女だった。髪の結び方とかネイルとかも、いつもかわいい。ネイルは作業用の手袋でかくれてしまうけど。
朝礼が終わり、作業がはじまった直後、うしろからだれかに肩を叩かれた。けっこう強めで、びっくりした。
「“すいませんさん” なんでしょ、俺は」
振り返ると男の人がいて、わたしを見てる(にらんでる?)。この人、名前なんていうんだっけ……。難しい漢字だったような。いつも無口なのに、どうしたの?
「昨日の勤務、俺にロールボックスの運搬方法、指図したじゃん。すいません、今運んでるんでストッパーかけないでもらえますか、って。俺はな、俺は、名前があるんだよ……バッジにも書いてるだろ……すいません、じゃないだろ」
「あ、あ……ご、ごめんな、さ、い」
「どうせさ、俺はさ、誰にも名前覚えられてないんだよ、お前さ、あとから入ってきて、なんで、そんな、指図できる?」
「さしず……じゃ、ないです、そのほうが……」
「あ、あの……みぞぐちさん、あ、えっと、だれか来て!」
えりかちゃんが悲痛な声を上げる。
「溝渕だよ俺は!」
おっきな声。すると、社員の人や周りにいた同じバイトの人が数人、わっと集まってきた。
「俺は、ずっとすいませんさん、なんだよ、誰からも、名前も、呼ばれなくて」
「溝渕さんちょ……っと落ち着きましょう! なにがありましたか? ちょっと、いったん、ちょっと、ね? 話聞かせてください」
社員の田中さんが彼の肩を押して、わたしから遠ざける。わたしは頭が真っ白になってしまって、身体が固まっちゃって動けない。えりかちゃんがずっとわたしの手をにぎってくれていた。
名前、名前で呼べばよかった。バッジに書いてるのに、なんで。
すいませんって言っちゃったんだろ。
「あっ……あ、ひととせさん、わ……ごめんなさい、休憩室行きます!」 声を漏らさないように泣き出したわたしを見て、えりかちゃんは休憩室へ連れてってくれた。
5
「これな……これ……」
ねむりからもらったへミスフィアは、半透明のパープル色。宝石みたいでなんだかきれい。
ここに彼女の記憶が入ってる……かどうかは、よくわからない。ねむりからもらった資料どおり、PCとへミスフィアをいじって(その資料っていうのがたぶんねむりがつくったんじゃなくて、なんかすごく大勢の人に共有するための資料みたいに整ってた)、設定し直したねむりのへミスフィアは、感応してくれない。しばらく撫でてみたり、話しかけてみたりした。やっぱりなにも起こらなかった。ねむりから、どうですか? みたいなDMが来たから、だめです、と返信した。資料どおりに設定できてることをねむりにリモートで確認してもらった。だからあとはひとあかちゃんの気持ちだけだって言われた。
「もうちょっと、こう……」そのあとすぐ、ねむりから電話がかかってきて、「わたしのことを、こう、ちゃんと思ってくださいよ」
「えぇ……」
「だってそうじゃん、他人のメンダコなんだから。もっとこう、メンダコに気を許してもらえるように、わたしの承認を受けた存在であるってことを……」
「うーん」
「おけですか? おけぴですか?」
「あの……ちなみに……ねむりさん」
「あ、ねむりでおけです」
「……ねむり」
「はい」
「ねむりは、みおから預かったへミスフィア、ちゃんと使えてる? 使えてますか?」
「だめですね」
「だめじゃん……あっ! ご、ごめん」
つい言ってしまったそのとき、電話口の向こうでフッて息が漏れるような笑い声? が聴こえた。だから、今、ねむり、ちょっと笑った? って訊いてみた。
「はい。でも今、ちょっと、ひとあかちゃんの本心が出ましたね」
「そ、そーかな」
「ちなみにさ、わたしけっこう、ねむりのこと思ってるつもりだけど」とわたしは切り出してみた。「ねむりごとも今日また読んだし、何回目ってくらい」
「ありがと」
「わっ」
「なんですか?」
「ありがとうとか言えるんですね……ねむりって。クール系だから、なんかそういうの言わなそうってか」
「わたしけっこう普通ですよ。自分でクール系とか思ったことないし。だってさ、家でぶりっこしないじゃないですか。わたし、Obsじゃないし、いっぱい人格つくるのむりな人なんです。これいっこしかなくて」「ああ、それって、『ねむりごと』でもよく使う、生まれたときから、って言葉? かなぁ」
「そう、そう」
「生まれたときからのわたしを、よく思ってくれる人はわたしだけでいい、ってはじまる、#14が好き」
「おー」
「あのお話って、結局こう、失恋のお話なんだけど、そんなに悲しげじゃないっていうかね、なんかさ、雨が降ってきて、傘持ってない人は濡れていく、そうじゃない人はちゃんと傘さす、そのシーンで、まるまって、新宿の南口の前で、濡れてるわたし、それ以上でもそれ以下でもない、っていうこと言ってる、そういうお話じゃないですか」
「うん、うん」
「だから、ほんとはわたし、もしかすると、ねむりのことクール系とか思ってなくて勢いで言ったかも、さっき、ごめんなさい」
「いや、謝るほどのことでは」
「ねむりの前ではうそつけないって、今、わかりました」
あれ? わたし、なんだか開き直ってきてない? 窓の外から雨音。こんな夜中から降ってくることあるんだって驚く。さあさあって音がする。灰色の窓の外の、空の空白。
その日、電話がいつ終わったかもはっきりしないのに、わたしはいつか寝てしまっていて。夢で見た景色のいくつかは、朝起きると文章になっていた。わたしはねむりのへミスフィアを、ねむり自身だと思っちゃうほどに、いとおしく握りしめていたらしい。
5.5
ねむりからの連絡はそれ以来しばらく途絶えてしまって、でもリーディングはうまくいくようになった。不思議な感覚。入り込もう、ねむりになろう(?)とするとうまくいかないのに、なにも考えずふわーっとした気持ちでいると、なぜだか勝手に文字が起こされていく。
ねむりのTwoonsは、念のため通知が来るようにしたまんま。でもちょっと数分に一回とか、数秒に一回とか、チリンチリン鳴るのがちょっとうざくて、切ってしまった。どうせタイムラインは毎日開くし、そうして今日も。渋谷のイベント? 展示会? に出店するみたいで、その準備をしてる写真。ステッカーとかプロマイドとかアクスタとか。ちょっと、いやけっこう、ほしいけど、かわいい~って思ってた。オオカミの毛皮をかぶったねむりのステッカーもだいぶかわいかったし。工作員に準備してもらって……みたいなことも書いてた。あと、一日に三回くらい「オオカミになりたい」ってポストしてるのも、けっこう昔から。ずっと見てる人なのに、なんだか遠くに行っちゃったような、でもまた電話がかかってきたらすぐまた引き戻ってくるような気もする。うーん、不思議な子だなーって思う。
ほら、また電話かかってきた。「また」って言うけどあの日以来。でも、なんだか。
「あのー……ひとあかちゃん」
「は、はい」
「自分が……こうつらたにえんのときに……つらたにえんの無理茶漬けのときに……電話できる人はいますか?」
「えっえっと」
「非常にこう……」
「う、うん、だ、だいじょぶ、ですか? わたしはそれ、その、ねむりに電話するけど、わたしがそうだったら」
「ヘァ!」
「どっから声出してるんですか 笑」
「うーん今日おじいちゃんちに帰ったんです。そしたら説教タイムがはじまってしまい……お前はいつになったら学校行くんだって、しかもなんかラジオまでやってるみたいじゃないかって……ラジオってなんのことって思ったら、インライのことだったみたいで、それラジオって言わねーしみたいな……」
「あー、うん。そうやって、おじいちゃんに」
「いえ、おばあちゃん。おじいちゃんは狩猟にしか興味ない狂人なんで……」
「ああ……(?)」
みたいな話を、わたしはそれから一時間くらい聞いていた気がする。なんか途中でめんどくさくなって、へミスフィア握ったまま聞いてたら、それみたことかって感じでカチャカチャ書き出されていく。そんな状況も含めて、この子がとってもかわいく思えてくる。苦しいくらい。
「わたし山に行くかも、今夜一人で」
「山? えっなに、やめなって……! てか、ど、どういうこと? ですか?」
「この近くに山があるんです。オオカミに会える山」
「わ、田舎? なの?」
「うんけっこう山奥」
「えー……やめて、こわいこわい。あの、話なら今ちゃんと聞きますから」
これ、わたしの言葉から感応してるのかな。ほんのりあったかいんだ。握りしめたへミスフィアが。ねむりがちょっとうれしそうな(味をしめてそうな)顔してるのも、なんとなくわかった。
「わたしメンヘラ嫌いなのにーわたしがなってるーんですー」
「わかったから、ねむり、わたし、そういえば聞きたいことあったんです、それも、あとで聞かせて」
「ひとあかちゃん……えーん、ありがとー」
たぶん動物診断、オオカミにならないんじゃないかなって思った。この子は、オオカミに憧れてる子なのかもって。
またひとつ、ねむりのことがわかったような気がした。
いつのまにか眠ってしまった、また。
5.6
みゃおみゃお「はいはーい、みゃおみゃおです」
ささにゃ「にゃーにゃー、ささにゃです」
さおりーぬ「くるりんりん、さおりーぬです」
まおん「わおんわおーん、まおんです」
いろぴ「指ふりぴっぴ、いろぴです」
五人全員で「SUPER ULTRA TEENS CH.でーす」
みゃおみゃお「はい、今日の企画は、これって脈あり、脈なし? うるてぃーメンバーに聞いてみたー!」
五人全員で「いぇーい」※拍手
みゃおみゃお「というわけで、前回もね、好評だった脈あり脈なし企画、メンバーを変えてやってみたいとおもいまーす」
さおりーぬ「あたし前もいたよ?」
みゃおみゃお「まあまあまあ、質問は前回と別だから」
いろぴ「前さ、さおりーぬさ、ちょっと炎上してたよね、わたしたちの中で」
みゃおみゃお「イケメンならなにしてもいいって言ってた!」
さおりーぬ「きゃーやめてー 笑 イケメンっていうか顔がね、タイプの人ならって話!」
ささにゃ「いや変わんなくない 笑」
さおりーぬ「変わるしー」
みゃおみゃお「まー、はい、ということで、さおりーぬの気持ちは今でも変わってないのか、それもね、合わせてやってみよーってことで。早速いっこめ行きますよー」
ささにゃ「え、これなにすればいいの」
みゃおみゃお「えっとね、この〇×棒を使ってくださーい、脈ありなら〇、脈なしなら×でー」
みゃお以外の四人「はーい」
みゃおみゃお「ではいっこめ、『同じクラスの男子(けっこう陽キャ)が、わたしのストーリーにぜんぶいいねしてきます』! はーいこれ脈あり? 脈なし?」
さおりーぬ「えっちょっと待ってこれ男子? 女子?」
まおん「によって変わるくない?」
みゃおみゃお「いやだから男子って言ったじゃん? 寝てた? 笑」
さおりーぬ「あっごめん」
みゃおみゃお「はいかわいいーからゆるすー(?)」
まおん&ささにゃ「……」※ひそかに二人でニヤついているところをズームで抜かれる
みゃおみゃお「じゃーいくよーせーの」
みゃお……〇 ささにゃ……〇 さおりーぬ……〇 まおん……〇 いろぴ……×
みゃおみゃお「おー!」
ささにゃ「えーうそ! いろぴ×!? ほんとにー?」
いろぴ「えーだってさ、けっこうふつうにするくない?」
みゃおみゃお「え、でも男子だよ?」
さおりーぬ「男子だから!」
みゃおみゃお「あっちょっと待って一人ずつ聞くね! まずささにゃから」
ささにゃ「これはーまるです! もーまる」
みゃおみゃお「理由をいえ! 笑」
ささにゃ「まずー、これいいねしてくるっていうのが女子なら脈なしかもしれないじゃん? わたしふつうにとりあえずーみたいな感じで押しちゃうもん」
みゃおみゃお「既読がわりみたいなねー」
ささにゃ「そうそう」
ささにゃ「でもー男子はさー、けっこうそういうのしない人多いと思うの! ほんとにいいねと思ったってか、ほんとに好きな人にしかいいねしない!」
いろぴ「でも陽キャだよ?」※横槍いろぴ、というテロップが入る
ささにゃ「どんな陽キャかにもよるじゃん!」
いろぴ「サッカー部? バスケ部?」
みゃおみゃお「この質問だけだとわかんないけど、いろぴ探偵だからわかるんじゃない」
いろぴ「えーいっちゃう?」※キラーン、という効果音と演出が入る
ささにゃ「なにが? 笑」
いろぴ「当てちゃうよ~(?)」
……三分ほどスキップ
みゃおみゃお「ではつづいてにこめ! 二問目!」
ささにゃ「もんめ!」
みゃおみゃお「バ先の先輩が『次いつシフト入るの?』って聞いてくる」
ささにゃ「おおー! これもう……」
みゃおみゃお「沸いてる! みんな」
さおりーぬ「いやこれもう確定じゃん?」
みゃおみゃお「はーいじゃあ〇×棒であげてくださーい、せーのっ!」
……三分ほどスキップ
みゃおみゃお「では三問目いきまーす」
ささにゃ「もんめ!」
みゃおみゃお「もんめ!」
ささにゃ「いちにょっき!(?)」
みゃおみゃお「……んーーーにっ……(?)」
いろぴ「……笑」※ひそかに吹き出している様子をカメラに抜かれる
みゃおみゃお「ちょっと! 笑 どーすればいいの! 笑」
まおん「え待ってーいろぴ一人で笑ってるよー」
みゃおみゃお「おーい! 笑」
……一分ほどスキップ
みゃおみゃお「三問目はこちら!『〇〇※あたしの名前です のクリップ読ませてよって男友だちに言われた』!」
ささにゃ「これはー」
まおん「うーーん」
みゃおみゃお「さあ〇×どっち!」
みゃお……× ささにゃ……〇 さおりーぬ……〇 まおん……〇 いろぴ……〇
ささにゃ、さおりーぬ、まおん、いろぴ「ええーーー!!」
みゃおみゃお「えっホントに?」
ささにゃ「だってさークリップだよ? ふつうさ友だちでもきびしくない?」
みゃおみゃお「見せるのが?」
ささにゃ「わたし友だちでも相当、親友くらいの子じゃないとむり! だってさそれでさ、けっこう本音で思ったこととか印加されるときあるじゃん」
みゃおみゃお「あーあのときこう思ったとかねー」
ささにゃ「そうそう、それがわかってくれる人じゃないとー、逆にもうそれで友だち関係終わっちゃうまである」
さおりーぬ「えってかさーそもそもクリップ人に見せることってある?」
ささにゃ「ほとんどない」
さおりーぬ「あれどうすればいいんだっけ? ポータルアドレス? を共有するみたいなのあったよね」
※クリップの共有方法についての注釈がテロップで入る(取り扱い注意! というテロップも入る)
まおん「だから結局さーそれくらい深く知りたいってことだよ」
いろぴ「ねー」
さおりーぬ「てかさてかさ、みゃおは? なんで×?」
みゃおみゃお「えっわたしぜっっっ……たい見せたくない」
さおりーぬ「笑 あの……そういう話? 自分目線?」
みゃおみゃお「クリップは人に見せるものじゃなくない?」
さおりーぬ「それはそうだけど、それを見せてって言われた子の話でしょ?」
みゃおみゃお「あっそっか(?)」
ささにゃ「そっか?(?)」
みゃおみゃお「こわいよークリップ人に見せるなんてー」
ささにゃ「見せたことない?」
みゃおみゃお「ない! ずっと一人でリーディングして、自分で読むだけ!」
…………
…………
…………
…………
6
「わー、なんかめっちゃひさしぶりって感じする」
みゃおみゃおあらため、みおはそう言う。うれしそうにしてる顔がめっちゃかわいい。
東京駅の中ってこともあって混雑している店内。ギリ席空いてて、ほんとうはこのスツールだけの席、あんまり好きじゃないけれど、みおと会えることがうれしくて、少しだけどうでもよくなった。
「ごめんねー、こんなところまで」
「ううん、わたしこそ、忙しいのに会いにきちゃって」「いや、いや! めっちゃうれしいから、ほんとまじ」
「ゆっくりしたいと思うから……」
「えーほんと気にしないで? どーせ新幹線の中で寝れるからさ、いつもそうしてるし」
みおはこうして週に二、三回は新幹線や飛行機に乗るって言ってる。
それで、わたしことひとあかのクリップは、へミスフィアをみおに渡したあの日の翌日から更新されはじめた。びっくりしたんだけど、小学生のころ美術館で迷子になった話とか、シーソーの片側にぬいぐるみがくくりつけられてた話とか、わたししか知らないはずの話がクリップになってた。だからちょっと怖いけれど、つまりリーディングはうまく行ってるってことでもある。
「なんかね、流れてくるの」とみおは言う。「あかりの記憶が、なんでだろ、不思議だよね、ずうずうしいよね」
「ううん」とわたしは言う。それがフォローなのか、なんなのか、よくわからない。笑うこともできなくて。
「でもね、最初はだめだったんだよね、リーディングうまくいかなくて、メンダコも光んなくて、どうしよって思ってたらさ、ねむちゃんから電話かかってきて。てかさ、普通さ、LINE電話じゃん? 知らない番号から普通の電話かかってきてさ、怖かったけど、取ったらねむちゃんでさ、なんかちょっと安心したけど、なんで番号知ってんだよって思った 笑」
「あはは」
「ねー、あの子さ、不思議だよね。キャラもインライとかで見たまんまだし。普通さちょっとでも裏表あるくない? ねむちゃんはもうずっと表! って感じ」
でもさ、ねむちゃんのおかげでリーディングうまく行くようになったの。もっとこう……なんとかひとあかちゃんを思ってくださいって。
「もっとこう……って言われてもねぇって感じだったけどさ、それがきっかけで、なんかさ、あかりのクリップとかを思い出しながら、目を閉じてたらさ、すらすらーって急にリーディングがはじまってさ」
ちなみにねむりの(つまりみおのへミスフィアを使った)クリップはまだ始動していない。なにしてるんだろう?
「わたしさ、もっとあかりになれるかもしれない、ねーなんだかさ、見えてくるの。なんだかお守りみたいって思ってさ、メンダコ、いつも持ち歩いてる」
「あ……」
そう言って見せてくれたわたしの白いへミスフィア。
「返して」
「え」
「あっ」
「冗談だよね?」
「あっうん、うそ、うそ」
自分から出た言葉にはっとして、あわてて取り消す。
「ねーびっくりしたー」
みおは笑う。でも、あれ? これって撮影のときの顔じゃない? きれいな歯並びをきらって見せてさ。
「YUBISAKIの人たちにも言ってるんだ、とりかえっこしてること。どのみちバレるんだって。通常はエラーが出るんだけど、わたしたちだけ特別に、仮想サーバーのほうで調整してもらってるって。ねー今度さ、開発現場ってか、YUBISAKIのオフィスに行かない? 赤坂にあるんだけどさ、わたし、役員の人、伊東さんっていうんだけど、その人とも知り合いでさ。個別でメンダコの調整もできるって。もっとうまく感応するようになれば、もっとよくなるかもしれないじゃん……あれ? あかり、聞いてる?」
「あ、うん、ごめん……ぼーっとしてた、かも……」
「ほらー」
「ごめんね……」
「ちがうの、わたしこう考えてた、こんなこと。あかりの記憶について。わたし、ほんとうにきみの記憶がいとおしいんだ。ほしいくらい」
「ほしい……」
「うん、わたし、ちいさいころは外で遊んだりできなかったから、親が超厳しくてー。マジで頭おかしいくらいなの。わたし、でも、なんだろー、あかりのクリップで言いたいことってさ、きっとそうじゃないと思うの。だれの記憶もいとおしいものだって、だから、そのやさしさが、ほんとうに、う、うざ、く、て?」
そのとき、今、そのとき、わたしはぞくってした。
ほんとうに、すぐ涙が出てきたんだよ。
でも、みおはなんにも、たった今、言ったことがまるで別の世界の言葉みたいに、
「ちがう、そのやさしさが、とっても、かわいい、うん、そう」
わたしはなんだかほんとうに、半分寝てるみたいな気持ちだった。なんだかね、なんでだろ。しつこく「ぜったい今日行くからだいじょぶ」って言ったのわたしなのに、なんでかなぁ。
「うん、かわいい、ほしい、ほしいなぁ」
7
「ねー知ってる? ねむりっているじゃん、Clipsとかやってる、髪が青い」
「紫とか黒じゃなかった?」
「今は青」
「あー知ってる! あいつまじ好かん 笑」
「なんで」
「なんかあいつさ自分かわいいって思ってない? なんかそのさ、仕草とかわざとらしすぎ」
「しぐさってなに?」
「は? 知らんの?」
「はじめて聞いた 笑」
でさー、ってつづく会話。わたし、隣の隣の席、一人。本、読んでる。
「炎上してる」
「なんで?」
「実は男だったんだって」
「はー?」
「Tik Tok見なって、ぜったい出てくるから」
「あー、もしかしてあれってねむりだったの? 加工前の、ひげ生えてるやつの」
「そーそー! あ! これ! 見て!」
「うわー、わーウケる、おっさんじゃん」
「そーでー、あわてていつもの女の顔に加工して、配信はじめるの」
「なんかもごもご言ってるけど」
「なに?」
「ちがうとか言ってるけど」
「ちがわんでしょ 笑」
「加工前が加工後だって」
「どーいう意味 笑」
でずーっと繰り返し繰り返し、ねむりが泣きながら弁明しているショート動画の、聴こえてて。
なにやってんのって思った。ねむりも、この子たちも、わたしも。
「あとさーみゃおみゃおも炎上してるらしい」
「はっ?」
「奈々葉さ、みゃおみゃおは好きだったもんねー」
「えっまじ?」
「まじ、見てみて、なんか、ニュース。ニュースサイト」
「文字むり。Tik Tokは?」
「あー」
さいはて ひとあか
#15
シーソーの記憶。
近所の公園。ひとりぼっちわたし。空を見て宇宙にとどこうと思ったひとりぼっちわたし。
忘れ物がときどきある。ぎっこんばったんの乗り物。ペンキが塗り替えられて、一か月くらい乗っちゃいけなかった張り紙。ガン無視、その子。夏のあつい日。肩掛けの水筒、かけたまま。ペンキでくっついちゃうよ。なんだか、一体化しちゃうよって思った。
シーソー。その子は結局帰ってこなくて、わたしだけが毎日。忘れ物のふたつめ。人形。そのころ流行ってた、名前忘れちゃったけど、妖怪ウォッチの、なんだっけ。でも、ちゃんと太い輪ゴムでしばりつけられてて。わたしはその子のおかげで、二人でシーソー。
できた。できた、って。わたしは宇宙を見れる友だちに会えた。
ねむりごと ねむり
#187
検索汚染。歴史上の人の名前を、バンド名に、するな。
わたしは繭の中で過ごした。わたしの両親は、今はいないってか別の人に代わってしまった。
昔のわたしの両親は、とても貧乏な二人で、特に父は、酒タバコギャンブルのトリプル役満で。スマホでもやってた。なにがそんなに楽しいんかいって思ってたけど。わたしも今やるからなあ。困ったもんだ。ほら、PS5だとローディング時間長いじゃん。いいかげんゲーミングPC買いたい。ロード待ちのあいだパチスロできるからね。
会いたくないなあ。会いたくない。
箱の記憶 みゃお
#3
ママは、ママはいつも。
お化粧のにおいがする。
夏はお肌が光っていてとてもきれいだったのに。
それで、わたし。知らない人でいっぱいの日輪をくぐるお祭りに連れて行ってもらって。
そこで新しい名前を授かったのだけど、それは秘密で、父と母しか知らない名前だという。それは、父はそのお祭りでいちばんえらい人で、先生といわれている人で、母はわたしのママで。先生はほかにも母がいっぱいいて、子どもたちは新しい名前を次々に、さずかる。
名前をつけるのは先生で、先生の語彙力やばい。わたしは実は知っていた。みんなの名前。それはだから、わたしが代理母ということになっていて、先生にこっそり教えてもらったからだ。
だからわたしは、みんなの指先を支配していたようなもんじゃん、だから、けっこう、わたし。
それ、快感で。やめられなくなった。
そういう経緯があります。
さいはて ひとあか
#16
美術館の記憶。
肩が外れるのって癖づいてくるらしい。わたしその子。右肩、すぐ。
デパートとかの床ってあれ、なに。大理石? ひんやりしてて気持ちいいから、よくごろんってしてそのまま、帰りたいとか帰りたくないとか、だだこねてたんだよ。なにどっちなのってママが聞くから、どっちもって答える。今でもそう、わたし、どっちも。
美術館で肩外れた。そのうえ迷子になった。わたしは、いつのまにかママがいなくなってたから、しかもそのうえいつのまにか肩外れてたから、どうしようもなくて。
肩外したまま、だらーんてなったまま、受付のとこに言って、今のわたしくらいの若いお姉さんに、肩外れました、迷子になりましたって。
言った。
ねむりごと ねむり
#188
ずっと昔小学六年生のころ。わたし一重がコンプレックスだったのからはじまって、二重パッチ使ってたのがはじまりで。それからメイクもやりだして、Tik Tokとかでメイク動画死ぬほど見まくってた。コスメ買うお金がなくて、収益って言葉につられて自分でもメイク動画出してたのがはじまりで。そのころいちばん叩かれてたのがつらくて、芋とかあこがれちゃった系とか言われてて、そいつらたぶん垢みたらもう社会人だったりして、数年たってもこれかいみたいなのですっごく落ち込んだ。自分がそうなっていくのかなって思った。
わたしガチ恋した人いて、その人にDM何回もして、たくさん答えてくれた。あのとき人生でいちばん勇気を使った。はじめまして。地雷系メイクをがんばりたいと思っている中学一年生です。XXXさんの動画を見て……全文スクショしてるから。結局、忙しくなったり案件でやらかしちゃったりして、わたしからのDMもうざいって思われちゃって、最後冷たく、てかけっこうひどい言葉でもうDMしてこないでって言われたけど、ずっと、まだかも。ガチ恋。青春だった。あああ
箱の記憶 みゃお
#4
いいですか、が口癖。先生の。
だけどわたし、あんまり先生の教えも、教典も暗記はしてるけど、ママみたいに人に教えられるほど自分の身になってない。大人の人たちはみんなやさしい。みんな、わたしは別にその人たちのやさしさって思うけどみんなそれはS教典のおかげだっていう。子どもたちの中にはS教典のことを信じてない子はたくさんいた。男の子のEくんもそうだった。その子は、焼き印を押されたことを一生うらむって言ってた。わたしは気づかないうちに押されてたから、いたかったとかぜんぜんおぼえてないのに。
みんな、いいですか、でリセットされる。Eくんもそうだった。あんなに、くそが、くそが、親ガチャ失敗や、って言ってたのに、先生にいいですかっていわれて、一か月もしないうちに、死んだ魚の目になった。
先生は大変だ。たくさんの人のめんどうを見なきゃいけないから。
後継者争いが起きてるらしい。ネットニュースで知った。まじそれなって、思った。
さいはて ひとあか
#17
子どものころ、マンホールはどこにつながってるんだろって思ってた。
名前の忘れた友だちの記憶。女の子で、小麦色の肌がきれいで、休み時間いつも二人で一輪車してた。
予鈴がなったのにわたしたち、裏門から抜け出して、隣の雑木林の中にそれはその子のおじいちゃんとおばあちゃんのお墓があるからと言われて、ついてきて。
獣道をたどると、そこだけしめ縄みたいなのがしてあって、工事中という立て看板がある銀色の蓋が地面に。女の子を仮にAちゃんだとすると、Aちゃんは、ここ、いつも気になってたんだ、と言った。ママはいつもここからお水を汲みに行く、でもこないだもどってこなくなったって。
Aちゃんはだんだん感情が昂りだして泣いてしまった。わたしたちはAちゃんのいなくなったママを探すからその蓋を開けて、人一人分くらいがはいれるその蓋の中に入っていった。その中はしばらくずっと湧水が壁に流れ続けるトンネルを通っていって、Aちゃんは徐々に声が聞こえるって言い出した。ママの声。
わたしもなんかここくぐったら会えるような気がしてきた。それで会いに行くわたしのママは、地上にいるママとはちがうかもしれないけど、それはわたしがずっと、どこかにいないかなって思ってた架空の母のような気がしていた。わたしはおのずから、歩き出していた。わたしはずっと架空の母について考えていた。ずっとずっと昔から。会えると思うと、わたしの地上でのできごともどこかすべて、ゆるされるような気がしていた。
ねむりごと ねむり
#189
てかわたし、最近までずっと忘れてた。その年上のガチ恋した彼女のこと。思い出したのは自分と同じようなだから一重がコンプレックスで~ねむちは一重だけどかわいくてあこがれで~ってDMが来て、なんか数年前のことを再生産といいますか回帰しているようで、そのおおもといやもしかするとそのとき彼女仮にSさんとしましょう。Sさん自身もわたしからDM来たときそう思ったのかもしれないと思ったら思い出して、だからけっこうその絶縁はわたしのHPごっそり行くほどのダメージだった周りの子とかでもたくさんいる。なぜかなかったことにしようとするよねわたしたち、忘れるとか交代人格とか。わたしSさんの名前でググってみたらYouTubeとかの活動ぜんぶ二年前から止まってて、どこへ行った? みたいなまとめ記事でエクソに入信したという噂がありますって。あー地下行ったかーって思っちゃったのでわたしもいつか「地下」なのかはわかんないけどわたしという存在を箱詰めしてもうおわろって思う日が来るのかと思うとなんだかとても。なんだかとても。近所にもあるんよ銀色の蓋。ちょうど箱サイズなんよ。階段とかなくて箱詰めされて落とされるって聞いたことある。てかさ窓の外から見えるの三角巾つけた人たちが夜さ獣道に入ってく。その人たちって顔、ないと思ってた。あったの、それさ、わたしだった。わたし獣道に入ってくよ。わたし箱詰めの準備。
箱の記憶 みゃお
#6
二世には二種類いる。地下で生まれた子と地上で生まれた子。序列的には地下生まれのほうが上で、だからわたしはちいさいころから遊ぶときも地上生まれの子からは敬語使われてたし、その子たちのママからもそうだった。よく思わないママたちもたくさんいたらしくてわたしに聞こえるように代理母代理母ってひそひそ話とか。こちらにはこちらなりの大変さありますよ。銀色の箱にわたし五才までずっとそれわかりますか? ぎゅうぎゅう詰めの箱にわたしは記憶をおいてきた。それは記憶をおいてくるようにいわれるだから地下の子はみんな記憶を外に出してあとは大人たちがそれを先生にわたす身体は箱なの箱に箱なの。わたしべつにいりませんよって言った。そのときへミスフィアのテストに呼ばれてたりしてたから。わたしこんなおもちゃなくてもできます。もともとわたしの身体にはなにもありません地下においてきました先生にもうぜんぶわたしてます返してくれるんならそれ先生に言ってもらえるならこれに詰めて逆に返してくだださ。」いそのかわり。言いません。それ取ひき、地上の人がだ、だい大好き取り引き
わたし帰りたいママに会いたいって。声が聴こえるよって言ってたそのときがいちばんわたし生きてた。一輪車の友だち。わたしのずっと大好きな一輪車の友だち。また会えてよかった。だいすき
時事系YouTuberフライヤーの! 今日も熱々、削除覚悟! 久々の宗教ネタ!
テレビでは完全無視! ネットには真実がある! 芸能界カルト汚染騒動勃発!
収益停止食らったばっかだけどこのネタを取り上げないわけにはいかない。ことの発端は、十代に大人気のモデル、みゃおみゃおこと宮尾実桜十七才。十代を中心に大人気の投稿サイト「Clips」に連載中のコラムにて宗教二世だったことを自白!
事情通の戦闘員たちによると! みゃおみゃおが信仰しているのはXexousx……これ、なんて読むん?
※「エクソダスだって」というテロップが表示される
宗教法人として登記されていないことから長年存在するかどうかすらあやしまれていたこのエクソダスなる宗教組織、みゃおみゃおの告白によると相当えっぐいことやってますってよ!
※「閲覧注意。心臓の弱い方はブラウザバックしてください。」というテロップが表示される
「わたしのとなりの箱に入った子は、その箱の中で死んじゃ
※上記のように該当クリップの一部が読み上げられる
え~と、よくわからんけどみゃおみゃおやほかの信徒は、例の地下施設で箱詰めにされてたってことで、インザスカイ??
で、これはエクソダスの教えってやつで記憶を箱の中に入れて上級信徒に捧げるってことらしいのよね。この儀式は信徒なら一度はやらされるらしい。それも一日とかじゃなくて、みゃおみゃおの場合は生まれてから五才になるまでって言ってるみたい。これがほんとならとんでもない虐待行為よね。一説には一度箱に入った信徒が出れるのはまれで、ほとんどの人はその中で死ぬ(※ピー音が入り、テロップは「〇ぬ」と表示されている)までいて、死んでから上級信徒に捧げられ、さらにその記憶を手に入れた上級信徒が箱に入り、さらにその上の信徒に捧げ、最終的には「先生」とみゃおみゃおが呼んでる教団のトップに捧げられるみたいなのよ。そしてここで手に入れた記憶、つまり情報よね。それをもとに日本社会を裏から支配してるなんてやばい話もある。いや~~、どうかしてるぜ!
そしてそしてここからがさらにやばい点。昨今話題となっている自動書記でコラムが書ける投稿サイト「Clips」。この自動書記に使う装置「へミスフィア」の開発元である企業「YUBISAKI」がエクソダスの関連組織であることが暗にみゃおみゃおからほのめかされてるからさあ大変。このへミスフィア、実はわたしも持ってます。握ってるだけで勝手に自分の記憶から文章が書かれるってなんかあやしすぎだし怖かったからやったことないけど、これなぜか若者に大人気。わたしの大学でもけっこうみんな持ってます。なんかちょっとおしゃれなんよね。ほら、このふにゃっとしたフォルムなにかに似てませんか? そう、メンダコ。
※生物のほうのメンダコの画像が表示される
メンダコ~なんて呼んでみんなでにぎにぎ。握った感触が癖になるとかなんとか。そしてこのメンダコもといへミスフィアを通して、若者たちの個人情報や記憶をYUBISAKIとエクソダスが収集しているなんて噂が立ってる。みゃおみゃおの告白によればそれはガチらしい。エクソダスはこの記憶を使ってなにを企んでいるのか。記憶を奪われた若者たちはどうなるのか。
そしてそして! エクソダスの信徒は首と背中のあいだくらいに固有番号? の焼き印を押されるらしいんだけど、みゃおみゃおって頑なに首の後ろ側、見せないのよね。うるてぃーの水着回ではなぜか一人だけ欠席してたり、髪を結んだ姿が一切なかったり。そしてー! 焼き印の話が知られるや否やネットでは有名人の焼き印がチラ見えしてる画像が次々に発見されてます。女子高生に大人気のTikTokerいがちゃん、バイトあるあるを毎日投稿のお笑い芸人∞焼きダルマ∞、K-POP系のビジュで人気沸騰中のモデル長谷部マリカル大翔などなど。いやー日本やばくね? この恐怖の記憶収奪システムが今、日本中を汚染しているのでは、なんて噂が……噂っていうか真実だけどね。ささやかれているのだ! そして……
さいはて ひとあか
#18
だからわたしはいつも夜はトンネルの中にいる。湧水のつたう静かで涼しくて虫の死骸が落ちてるあのトンネルの向こうででもそれは永遠につづくと思っている。わたし妄想なのか夢なのか、なんなのかわからないけれど夜はいつもそのトンネルを歩いていて、母という存在に思いをはせています。身体はそこでは自由自在で、どえらい隙間にしゅっと入ってったり、ねずみしか通れない側溝を歩いたりする。でもすべてはただ歩いている。ふとわたしは足を止める。そこには一匹のオオカミがいた。少しちいさめで、やや痩せている。おなかが空いていそうなのに、彼女はこちらを見ているのをやめない。わたしはそれで、どこから来たのか自分がわからなくなった。ママ会いたい。いつか会いたい。
ねむりごと ねむり
#190
遠く遠く。まだわたし子どもだったころ。わたし群馬のとても山のほうに住んでた時期があって、それはおじいちゃんちでさ、一回目の離婚のとき、今日からばあばのうちに住むからねって一回目の母親それは仮にBさんとしましょう(一回目もなにも、一回だけだった錯乱)Bさんはわたしを預けたその日からもうおばあちゃんちには来なくなった。次来たのは一年後。だからわたしずっと一年くらい山に住んでて、やることなかったからおじいちゃんとおばあちゃんの畑仕事いつも手伝ってた。あのときの日焼けがもうずっと引きずってて十七才今まで。おじいちゃんちょっと狂ってる夜でも平気でわたしを連れ出すまじうける、いつも猟銃かついでるけど発砲したとこは見たことないかも。いちおうわたしこれほんもの? って聞くけどおじいちゃんほんものだって言う。それでわかんないもしかしたら真夜中じゃなくていつも明け方の直前くらいだったのかもしれないけど、罠の確認で、イタチとかいつもかかってた。わたしはそれいつもただ見てるだけ。おじいちゃんボケてるのかマジなのかほんとわかんないけど、わたしのこと男の子と思ってたんちゃうか。いつも風上に立つなって怒鳴られてた。うるせーなって思ってた。風上って意味もわからんかったし。なんか、匂いとかで獣にばれるらしい。だからそのときわたし風上にいたときの記憶。
わたしちがうの、なにか、だれかに見られてた気がしてた。おじいちゃんは罠にかかった獲物に夢中で、イノシシは毛が硬いからちゃんとよく取らないと、おばあちゃんによく言っておかないと俺は口の中裂けたことがあるとか言ってたけどわたしはあんまり聞いてなくて、そのときなぜかわたしおじいちゃん? なのかわかんないけど、三人称みたいになってて、その視点のだれかが「おいどこへ行く、おい、おい」って叫んでるのでもわたしは振り返りもせず、まるでそっちになにがあるのか知っているみたいに、つと歩いていきます、そして視点はそれを追ってるんだけど、追いつかないほど彼女の足は速くて、そしたら、なにか彼女は獣みたいに、彼女の影が四足歩行に変わって、そのしなやかな影が闇に動いて、帰っていった。わたしそのときのことずっとおぼえてて、迎えにきてくれたオオカミのお母さんのこと今でも思ってる。貧相で、毛並みもぼろぼろで、やつれた頬で、でもわたしは彼女のことを世界一美しいと感じた。だから、わたしずっと経ってネットで調べるまで日本でオオカミが絶滅してること知らなかったってか、普通におじいちゃん(って呼ぶのもなんかやだきもい、仮にCさんとしましょう)Cさんも普通にオオカミが出る話とかしてたもん。Cさんは山のことしか頭にない異常者。わたしはずっと会いたい、ずっとあのオオカミのお母さんがわたしのほんとうのお母さんだって思ってる。だってわたし、この目で見た、わたしがオオカミみたいに走っていくとこ。手も足も別に痛くなかった。ぬるい風と夜気を感じて、全身が夜の記憶だった。
箱の記憶 みゃお
#7
わたし、わたしって呼ぶもの。わたしわたし。箱に置いてきた。Xexousxは銀色が大好き。装束も銀色、建物も銀色、蓋も銀色。一説には日本のステンレスの一割くらいXexousxが買ってる。もう工場作ったらいいのではと思んいいます。わたしって呼ぶものはわたしが5才のとき先生の手に渡ったそうです。それがためにわたしは(だれ?)先生の記憶らしきものがいつも映ってまs。でもなんだか本で読んだ通りの記憶たとえば十七才からのじゅう年間チベットで修行しましたとか、4じゅうっ才でXexousxを立ち上げ銀色の三角形を町の人に分け与えてその町が独立しましたとか。自分は年表みたいで、これが人の記憶なのかなってずっとわたし思ってたんです。本もよく読んでいたけれど、そのとおりだと思ってたんです。小説とかフィクションじゃなくてその人の記憶だって思ってました。だからわたしクリップに出会って、あれちがうんだって思って、これが本当の記憶なのかなってあかりのクリップを見て思ってわたし泣いてたんですいつも泣いてた。わたし欲しかったあ欲しかった人になりたかったよの泣く泣いてたでもこれは仕事わたしに与えられたわたしの年表にそう書いてるから使徒xxxmixonxは2029年へミスフィアを用いて記憶を集め献上しました。わたし年表どおり箱になにがあった教えてほしいでかえいおだ、だきいって。
教えてほしいかそい!!返せ!!!!すかんだきいって、だき。使徒xxmixonxにさだって、こいじまさうどい。オオカミ、母のÑーーさすかん。だっくくく、!!!!!!!
!!!!!!じらいさ、へミスフィアをさー銀色、だうかさし。さくしさくし、ゆるされさき、返してううういさきさくんだってふりーさきさくふじのさくささ、永遠さききーくひじじぞへささそふっくむらじXexousxXexousxだうろっしささくくきいおですさいじさえふびよびゃびゃあきっききりぐじささってさをさをじあのあさーーきうぃぉおんオオカミ欲しかった使徒だっくささだ!!!!!!!!!!さーきささ使徒xxmixonx!!!!使徒xxmixonx!!!!だふーさーさしこたんしー市さんさんどりみーふふあとっとさんさせたださーさしじいくs返せ!!!!「返して」。さ蓋、銀色んさだきーささー使徒xxmixonxずっとわたし思ってたんですさおー泣き泣いてしっすさしましじいっくさーしーそてを返して。「返して」
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さつきふじさっくあじさですさー、さいんの、なったです。わたしそして、思ったこと道の、トンネルにはわたしのママが待っているトンネルの先、露さなんぎなぎになったんです。頭の数そして、箱、銀色光光ってさううんクリップなんだった。はい、わたし、わたしわたし。わたし。頭の数、記憶って光ってさうクリップ、そうなんだ。わたし、わたし。ママ。光って記憶なん、はいわたしわたしあかだきおふささふっってろすふー。さUnママ。わたし帰りたいさろさだっくすさではいわたしわたしわたしわたしわたしわたしさろいママクリップ、風上ママ、さろっふふっふです。わたし、そう。わたしの記憶なのそれが。だだきっいぇてんだよー。痛い。ママわたし。さだぁっいぇるぃうじじですわたしー。泣き泣きー。わ、あわおーん。わおーん。わおーん。だ
8
ねむりから呼び出されたのは、わたしたちが連絡を取らなくなってから一か月くらいした、秋のはじめのころだった。
「あかりちゃんのことをオオカミだと思ってのことです」
「えっと」
「わたしは、あかりちゃんのことを迷える子羊だなんて思いません。わたしのほうがそうなんです、あかりちゃんはオオカミです」
「まぶしい」
興奮しているのか、ねむりの手に持った懐中電灯がフワフワと動いてわたしの顔に光が当たる。
「あ、ごめん」
「それで、今からなにするの?」
「あの山を登ります、わたしがいつもオオカミを探しに行く、大切な山です」
ねむりが指さす先は、ぼんやりと稜線だけが見える近所の小山のようだったけれど。
「わたしはあの山に銀色の蓋がつくられたのが、ゆるせないです」
ねむりはリュックを背負って、片手には懐中電灯をにぎっている。
「わたしがメンダコをとりかえっこしよって言った理由が、一連のことでなんとなくわかったかと思います。ごめんなさいあかりちゃん。騙してたといえば騙してました。わたしどうしてもゆるせなかったんです。エクソが絡んでるって知ったとき。わたし、ゆるせませんでした。エクソはわたしから二度も奪いました。オオカミのお母さんも、Sさんも。そして今度はたくさんの子たちを箱詰めしようとしてます。山も奪おうとしてます。宮尾実桜のことは知ってました。わたしの工作員が特定しました。宮尾実桜はエクソの使徒だって。そしてひとあかちゃんに接触しようとしてることを知ったので、わたしはこのときを逃さないと思いました。もう、こうなることもわかってて。
今、わたしたちの記憶はごちゃまぜになってますよね。もうわたし、自分があかりちゃんなのか、宮尾実桜なのか、よくわかんないです。もしかすると最初から、わたしなんていなかったのかもしれないし。で、それが、たぶん、エクソのやりたいことなんです。わたしは、わたしって思う子を守りたいんです、もうわたしはだめだけど、わたしはいなくなるけど、せめてわたしより若い子たちは、わたしを殺されてほしくない。エクソをわたし一生恨んでます。でも不思議なんです。銀色の蓋、見かけるようになったのってその日からなんです。その、ニュースってか話題が出たとき。でも、その蓋を見かけたとき、あれ? なんかずっと昔からあったかなって気になって。なんだかよくわからなくなってきてて。だから、もしかすると、わたしの恋人は、わたしのあの人は教えてくれただけだったのかもしれないんです。だから、たしかめたいんです。あの中になにがあるのか」
わたしとねむりは、真夜中だった。もう、でも、ずっと真夜中が何日も、何百年もつづいたみたいな時間に思えた。わたしたちはその小山を少しずつ登って、その途中で手頃な木の棒を杖にして、これ歩きやすーいとかって言いながら歩いた。そして銀色の蓋は見つかった。この中にみおもいるかもしれないと思った。ねむりは言った。「今を忘れない、わたし、今、幸せです」。わたしは、あ、この瞬間のことだ、と思った。たぶんこの蓋の中に入ったらわたしたちはもうわたしたちにもどれないから。それを知っていたのだと思ったんだ。わたしは、今このときが、もう過去になってしまいそうなこのときが、わたしの生きていたときだって思った。それがねむりにも知っていたのだと思った。目の前の怒りは、銀色の蓋に対するこの怒りは、わたしは。わたしはスクールバッグに入れた(なぜか制服姿だったわたし。なんで?)へミスフィアを持ってるか確認した。そしたら、なんか三つくらいある的な感触がして、スクールバッグをひっくり返して中の物ぜんぶ地面に落としたら、わたし、ねむり、みおの三つのへミスフィアがあった。なんで? とねむりも言ってた。わたしは、あれ? ぜんぶ、わたしだっけ?
と、思った。
それで、そのあと、銀色の蓋は開いて、ああ、わたしとわたしたちは、中に入った。わたしはそのときにたくさんのクリップを読んだ。羅列されていく文字と、それが記憶になっていくのだった。ねむりは、ちがう、こんなのちがうと言ってた。
「わたしは、信じないし。わたしは、わたし。お前じゃねーし」
うん、うん。
それで、そのあと、びっくりした。へミスフィアがしゃべりだしたから。
「わたし、わたしわたし。春夏秋冬明瞬」
「わたし、わたしわたし。わたし」
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「あかり? これ入館証、持って」
白いカードを差し出すみお。これでピッてして、と。
それをかざすと、改札口みたいなゲートが開いた。わー、ドラマみたいだって思った。
エレベーターに乗った。5Fで降りた。思いのほかちいさなオフィスだった。人は十人くらいいたと思う。男の人はスーツを着てるし、普通に会社みたいだった。窓の外が暗かったから、ああもう夜? って思った。窓の外を眺めている男の人がいた。窓に映る姿がちがっててちょっとびっくりした。窓に映るその人は、銀色の三角巾で顔を覆ってる。銀色のマント? ケープ? みたいなのが身体をすっぽり覆ってる。でも振り返ると、笑った。ちょっと笑って、わたしとみおのところまで来て、ようこそお越しくださいました、と言った。パンフレットをもらって、あちこち案内してくれた。ショーケースに入ったたくさんのへミスフィアは最初期の試作品から最新機種まですべてが展示されていて、年号(西暦じゃなかったみたい、Xとかがたくさん入った数字?)と機種名が表示されたプレートを見てくださいと言われた。たった三年間でここまでのものができたんです、とその人は言った。パンフレットにはClipsのユーザー数がこれだけ増えていったっていう棒グラフが掲載されている。みおはぜんぶ知ってますよ、何回も説明聞いてますよみたいな顔をしてる。あ、そういえば名刺ももらったんだった。貝塚なんとかさんみたいな名前だったような気がする。裏面の右下のとこにxxkaxixxみたいなコード? みたいなのがあった。さっき乗ってきたのとは別に、バックヤードみたいなところ、薄暗くて蛍光灯一本と鉄骨とアスベストがむき出しになってるところの、そっちのエレベーターに乗ると地下階がB15くらいまであって、地下多っ! って思った。B10くらいの階に降りて行ったと思う。降りて、トンネルみたいな通路を100メートルくらいずっと歩いた。そしたら急に開けて、ドアを開けたら、横一列でたくさんの人、たぶんわたしと同じくらいの年代の子たちが、机も椅子もずっと果てしなくありそうな一列のやつに座って、へミスフィアをにぎって、針金でつくったような奇妙なヘルメットをかぶってた。針金同士がつながって天井に配線みたいになってた。たくさん人がいるのにめっちゃ静かだった。だれもなにもしゃべらない。貝塚? さんもみおもしゃべらない。その子たちは顔がわからない。針金のヘルメットは顎まで覆ってるからほとんど。でもずっと見ていて、わたしたち三人はずっと奥まで歩きつづけてて、それがずっと何時間も歩いたような気がしてた。そんなことあるわけないかもしれないけど、だってそれだったらこの一列の銀色の机はとんでもない長さ(2㎞とか? うそでしょ)になるし、でもようやく端っこが見えた。端っこ、そのひとつだけ席が空いてたから、あ、あそこに座るんだって思った。
「すみません」とわたしは貝塚? さんに言った。「お名前、もう一度教えてください」
「はい?」
「名刺、どっか行っちゃったんです」
「ああ」
「教えてください」
「名前はありませんよ」
「えっ、だって貝……なんとかさんって」
「それは偽名です。もともとあったような気もするんですが、二十五才時に箱へ印加したと印加されています。わたしは現在三十七才ということが印加されています。個の識別はxからはじまるナンバーで足ります。それは名刺に書いてあったかと思いますが、あなたが今知る意味はないんだよ」
月の近くへ #1
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次回予告を見ながら、えーどうなんのこっから、とひとりでにつぶやいた。ママが帰ってきた。テレビを消して部屋にもどる。窓の外の雲間に黄色い光がにじんでいた。よく考えたらそれは月だった。月に行きたいなぁ、とひとりでにつぶやいた。なんだか、いつでもなにかが引っかかっていて、めんどくさい。
すーっとする薬を買おう。AmazonとかTemuにたくさん売ってる。ドライヤーがすぐ乾くトリートメントとかも欲しいし、みゃおみゃおがメイク動画で使ってたコスメも欲しい。消す前、テレビ消す前に、一瞬ニュースが映って、オーバードーズの規制って見出しが見えた。たくさん売ってる、たくさん売ってるのに。タイムの新作、緑と紫のやつ。買えばすーっとする、切ればすーっとする。飲めば、打てば、使えば、なんだか、それだけだよ。
地球にいるかぎり、なにかを消費していかないとわたしが消えちゃいそう。皮膚の表面、いつもいつでも蒸発してるみたい。
そういえば、最近推しの子が炎上してた。本人がいうには友だちとふざけて男顔のフィルターかけてたままで配信はじめちゃったんだって。ほんとー? 検証動画とか出てて、不自然ってめっちゃ言ってたよ。それは、その人はたしかなんだか、なんかわからないけど詳しい的な肩書きの人だったから、コメント欄にはこの人が言うから信用できるって。あっぶねー。推してるってだれかに言う前で、よかった。
月に行きたいな、一人の場所がほしいな。
わっこれかわいいー、デコレーションテープっていうの? 五本まとめ買いで三百円安っ! わー、でも、月ならだれにも見られないのに。
ずっと考えてることがある。ばかじゃんって思われるから、だれにも言わない。わたしは、その妄想みたいななにかが、今、消えてしまいそうだ。月に逃げたくなるのもわかる。
「ちょっと、ドア、ノックしてって」
いつも言うけど、ママは聞いてくれない。だって薬とかプリントとかぜんぶ置いたままでしょ、いつも、と。それとノックするしないは関係なくない?
「あの、あなたの名前を忘れてしまいました」
「はぁ?」
「あなたの、名前を、忘れてしまいました」
ママはそう言った。二度めは、文節をしっかり区切って、なにがなんでも伝えてやるんだって意思を感じた。わたしはその言葉を聞いて、その場でとても泣いた。ママ、それだけを言うと、泣いてるわたしを見もせずに、リビングにもどってしまった。
だってわたしも忘れてしまってる。
なんでこんな悪夢のような人生かなぁ。わわん、わわん。
うう、
ううー
えー
月、月に行きたいよぅ。
スマホの通知だ。
新しいクリップ:さいはて #19 ひとあか
ああ、ひとあかちゃん。わたしひとあかちゃんがいいなっていつも思ってた。あなたはもともとわたしと同じ記憶を持ってたような気がする。ただメンダコを持ってたかどうかのちがいだったかもしれない。あなたはいま、Clipsでいちばん注目されてる。今度テレビにも出るって聞いた。もちろん顔出しはなしだろうけど。クリップ集もめっちゃ売れてる。いいなぁ、いいなぁ。きっとひとあかちゃんは月に住んでるんだ。だから、遠くから、まるで他人事みたいに、書けるんだよ。
わたしひとあかちゃんの名前がほしい。
ひと、は苗字で、あか、は名前っていう説を聞いたことあって。でも、ひと、ってなに? わたしスマホでたくさん調べた。もうずっと夜の夜中だった。ひと、ひと。人田とか人本とか調べたけどなかった。
「春夏秋冬」
と書いてひととせ、と読むっていうのが一件だけ見つかった。えっこれちょっとさかわいくない? って思った。わたしのかつてあったわたしの名前は、たしかどこにでもあるような苗字だったと思う。だから、けっこうあこがれる。
あか、はたぶんあかり、とかじゃないかなぁ。漢字は?
「明瞬」
っていう文字が浮かんだ。瞬間が明る。ひとあかちゃんそのものみたいだ。ひとあかちゃんって、こんなに素敵な名前だったんだって、そう思ってわたしはまた泣けてきた。薬をひっつかんで、でも、飲まなかった。わたしは、今のこの気持ちを忘れたくないって思った。なんでだろ。
「わたしは、ひとあかちゃんになりたい」
言い聞かせるみたいにつぶやいたんだ。でも、飲み込めない。
名前のないわたしは、ずっとずっと不幸なのに、わたしは。
でも夜勤の時間になった。予鈴が鳴った。ここ、珍しいですよね、予鈴が鳴るなんて学校みたい、えっもしかして学生さんですか? とその人は言った。貝……なんとかさんみたいな名前だったと思う、大人の男の人。高校生です、はい、でもわたし、名前ないんです。
ここでいちばん仲がいいのは、ねむりとみおっていう子。二人とも同い年の女の子。金曜日だけシフトが同じだから会える。ねむりとみおにわたしは言った。わたし名前ないかもって言った。わたしの、だれにも言えない友だち。わたしが目をつむったときだけ会える、きれいな友だち。ううー
ううー
月に
行きたい
だれにも
会いたくない
えーん
休憩室にいたわたしたち三人は、自動販売機の隣の金属のはしごで、上に夜空が見えるよ、月を見てこようと言った。予鈴は何度も鳴っていた。一分前、三十秒前、十秒前、しつこいなぁって思いながら、わたしたちははしごを登ったら屋上に着いた。夜はまだもやもやの灰がかかっていて、月は現れたり消えたりした。わたしはどうだっけな、名前をなくしたわたしはどうだっけ。月は何才のときに見たのが最後で、シーソーにぬいぐるみが縛られてたのはいつのことだっけ。あ、名札だ。これに名前が書いてあるはずだけど、あんまり見えなくて、見たくなくて目を逸らしていたのかもしれない。ねむりは月に向かって吠えてる。オオカミみたいな影だ。みおはなにかひとりごと。記憶返してミ、ささそ、とかって言ってた。まるで公園の子どもたちみたく、わたしたちはばらばらだった。いとおしかった。だから名前なんてさこだっし、マモっきき、ラグ時さえん永遠、えーんなんて思って。ちょっと聞いてって言って、二人を呼んだ。二人はずっと友だちだった。いちおう聞いたらお互いがお互いちゃんと友だちだって思ってるって言ってた。わたしはね、名札、留められた、クリップ、外したよ。終わりにしよって思った。泣かないでいいね、って言った。それは、名札の中が鏡になって見えていたから。クリップで三人の肌をくっつけあって、痛い痛いって泣き叫んでる三人を見て、ごめんねってこんな物語でって。今でもわたしたち三人は彼女の中にいるでも外にいる。
ほら月だよ、ほら風だよ。でも、だれも呼んでない、だれからも呼ばれてない。でもいつかわたしたちはそれだったよ。血は流れなかった。涼しい秋風だけがここにはあって、言葉もないよ。ここ、クリップ。わたしはわたしの小説。永遠に、この瞬間をね。名前はないかもしれない。でもクリップしておきたい、そんな気持ちわたしだいじにしたいなーって思った。自分でそう思った。だからわたしは、自分で自分を、今ようやく決めれた。
秋の風は黙ってくれてて、やったじゃん。ほら、泣いているわたし、怒ってるわたし、聞いているわたし、見ているわたし、月に帰ってくわたし、小説のようなわたし、銀色の箱の中のわたし、あの光のさざれ石のわたし、光って惑う渦のわたし、星と一体のわたし、星に見放されたわたし、たくさんの過去と未来とわたしたち。月が見える。月がそこに見える。だからそう、お守り、持ってこなくちゃね。
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なくさメモリーさもしかすると、Anyだそさ永遠、瞬間、春の、あき新作あだいでったさ、もあだリズささいいいだお。
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この人生、さえwquo-tationsaき、これからもずっとお守りろ、さーんエムlをん
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わたしには名前がない。このクリップだ、ようやく見つけた。
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僕は知ってしまった。小手先ではなにも変わらないってこと。あの夕焼けがずっとこびりついている。水滴、ワイパーの動き、オレンジと紫が混ざったあの色。それ、病院の帰り、僕は僕たちになった。そのとき、僕はだれかと一体になっていた。今でも僕はいつも思い出している。授業中とか、爪を切っているときとか、本を読んでいるときとか。呪いかもしれないと思う日もあった。それでも僕は、いつか僕たちになりたい。山の稜線には魂が走っている。きっとご先祖様たちの。いつか僕もそっちへ行きたいけれど、今はこっちへいたいけれど。
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まんじゅう、うさぎ、ギロ、六角形、いか、貝、いか、かばん、ああ、むなし、ああ
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世間知らずだ、った、どん暴風雨な、もういいでしょ終わなきり、虚しさ、を、抱え、抱きしめ、うきみ、が見せるあの、ニュースキャスター歌の沈黙の歌にほうき、星、ティーンエイジ、ピエロ中川、のあいつの正体、虚栄心失敗を、うわべばかり、ナで争いがまた評論家の指摘、なんか、今、回今、僕、鏡の中の男に今、復讐を、なにが起こって、も、変、じゃ
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使徒のーのxのーかいまんだう、だ!!!!!!!!!!!!さぎあぐげわたし、!!ぬおさ?自由dの架空の母さ、んママmさママ、ママ!!!使徒先生、箱、箱!!いやQ!!!死だ永遠さうえん、友だち、最初の友だち、A、うえn!!!!!!!!!!!!!!!!さ、うるてぃー収録sだQQ!!!!とりかえk!!!!使徒!!うああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!あああ!!!!泣泣泣!!!!ああああああああああああ
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月には、月にはなにがある。裏側でひとり、そんな想像。それ、クリップする、それ
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とげしかな、まんだら愚さ、さんず水と言ったくせに、わたしはそれを受け取ろうとしなかった。カップに入ったままで今も沈んでいる。その水の中に世界があったから。
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太陽の光さ、デンオンクラッだsきク緑色、光わたしわたし境界こうしょうわたしには点がいのち見えている
初出:2024年10月 神谷京介公式サイト(仮)
制作・脱稿:2024年10月