こころのひつぎ

こんにちは! ぼく、ひつじだよ!
このアプリのつかいかたを説明するね!

~横スクロールの画面。右端に黒い棺、左から羊が数匹流れてくる~

黒いひつぎのなかは、まだからっぽだよ。
まずは、ぼくのどれかひとつをタップしてね。

~タップされた一匹の羊がほんの少し宙に浮く~

タップできたら、ぼくを黒いひつぎのなかにいれてね。

~一匹の羊が黒い棺の中に入る~

ありがとう~!
ぼくはまだまだたくさんいるよ。画面がじゅうたいしないように、手際よくぼくたちをひつぎのなかにいれてね! では、スタート!

・・・

「うわ、うわわわ、めっちゃひつじ来る、やば」

「え、ちょっとまってむずくない? ほら早く」

「ちょっとウルも手伝って」

「これ? どっち?」

「いや早くやれし」

「うわ、めっちゃ来る、まじむり」

「あ、まって止まった、ひつじ止まった」

画面の中の羊は歩みを止め、動かない。
右上には棺に入った羊の数が表示されている。

「23匹」

・・・

たくさんのぼくをいれてくれて、ありがとう~!
きみはどう? きみをみつけられるまで、つづけてみてね!

・・・

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・・・

おはようございます!
最近話題の心の棺やってみました~!
30匹超えてから、なんか気持ち悪くなってきてやめました笑

95 リツイート 1,782 いいねの数

・・・

毎日見てます。今日も可愛い~

りっちゃんおはよー!

あのゲームね。あれちょっとやばいよね笑

おもろ

23匹超えたんだwww

それやめた方がいいですよ。
危険なアプリです。報道されてないだけで実は自〇者出てます。こちらのリンク見てください。 news.m…

りっちゃんファイト~!!─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ

昨日バイトでテレビ見れなかったー(泣)

・・・

布団にもぐり、部屋の電気を消す。
手でさぐって、自分のスマホがそこにあるのをたしかめて、目を閉じる。

「なに、今日も会社行かないの」

妻の声。

「無理なんだよ、身体が動かなくて」

「課長に連絡したの?」

「LINEした」

ミュートにするのを忘れてしまって、羊の鳴き声の起動音が部屋中に鳴り響いて。

「またそのゲームやるの」

僕は返事をしない。

「もう叫ばないでよ、大家さんに怒られるのあたしなんだから」

・・・

観覧車が好きだった。地元の、古いちいさな遊園地。子どものころ、母に手を引かれて、よく訪れていた。月に2回くらいは、行きたい、とせがんで、月に1回くらいは連れていってもらえた。

その日、母の隣には知らない男がいて、僕を見るなり、けらけらと笑った。ごあいさつして、と母は僕に言った。彼は退屈そうに一人で先を歩いていた。

観覧車の次に僕が好きだったのは、200円を入れて水鉄砲で標的を倒していくちいさなアトラクションで、たしかその男と一緒にやった。

観覧車に三人で乗ってから帰ろうと母に言われて、僕は泣いた。ママと二人がいい、と泣いた。その日を境に、僕の感情はなくなってしまった。

観覧車はゆっくりと昇っていく。園内の景色が徐々にちいさくなっていく。

「ママ、ひつじさんがいる」

「ほんとだね、今日はひつじさん何匹いる?」

「えーとね」

併設されたちいさな動物園、その柵の中にいる羊を数えていく。
あのころの僕は、数の数え方をよく知らなくて。
だから、いつも母に教えてもらっていた。

「きょうはね」

・・・

ありがとう~!
すこし先の未来に、ぼくはかえっていくよ。
きみは、どこにいたかな???

▶ もう一度チャレンジ  おわり

・・・

「あ」

「なに」

「なんかさ」

「なんか?」

「あたしがいた」

「なにそれ」

「あたしがあの中にいてさ、もう未来なんて見たくないのにって、泣いてた」

「あーなんかわかる、いちばんオドオドしてたあの子」

「そう、ウルにも見えた?」

「見えた」

「でも、今、もう今が未来で、さっきの子はもういなくて、泣いてたあたしもいない」

「うん」

「どっかいっちゃった」

・・・

これが記憶、これが未来。
わたしは、狭苦しい部屋、その天井を見上げて。
いつかずっと昔のことを、届きもしないのに、回想している。


初出:note (2020年頃)