1
トンネルを抜けたところで突然女に呼び止められて、私は固まった。振り向くと、M高の制服を着た茶髪の派手めな子が、自転車にまたがってこっちを見ていた。
風の寒さが急に目立ちはじめた落ち着かない日の、朝の出来事。
「あっ」
まずい、という気持ちだけで、おもわず声をあげてしまった私。
「久しぶり、元気だったぁ?」
それから、軽く背中をたたかれる。
薮内香奈子はピンク色のブラウスにブラウンのミニスカートを着ている。足元は黄緑色のナイキのハイカット。中学の時より更に眉毛が細くなっていたけれど、あの頃よりはもうちょい器用になったのか、それは彼女特有のやわらかい表情にとてもよく合っていて、おもわずじっと見つめてしまった。
「今日ウチら文化祭なんだ」
そう言いながら、薮内は指先でそっと前髪を整える。
「え、平日なのに」
「そうよ、知らないの?」
目の前の横断歩道をバスが通った。ちょっとだけブレーキをかけて、二人とも自転車を止める。
「ね、ほら見て」
薮内は前髪を指でちょろちょろさせた。
「ストパー」
と、無表情で彼女は呟く。
「ああ……」
「3000円くらいかかったし。高いと思う?」
そんな質問をされてもいまいちピンとこなかったから、「うん」と「ああ」の中間ぐらいの生返事しか返せなかった。
「高いっしょ?」
「うん、でも、なんで」
「……なんで? なんでってアンタさー」けたけたと笑われた。
特にS商業の男子はイケメンばっかりだって、そんなことも彼女は喋ってたような気がする。特に仲がよかったわけじゃないから、一方的に散々中身のない話をされるばかりで、私はそのたびにこくこく頷きながら聞いてるふりをしていた。自転車を漕いで学校へ向かうほんのわずかなひととき、彼女の話は尽きることもなかった。学校のことだけでこんなに話の種を持っているなんて、とつい感心してしまう。
すごいなぁ薮内、目一杯楽しんでるんだな、高校を。その時は、そんなことを疑いもせずに本気で思っていた。
「彼氏出来た?」
そう問われた時、私は瞬時に首を振ってしまった。そのあと、あ、って思った。もうちょっとじらしたほうが、情けなくはなかったのに。
「んーじゃあ、友達は?」
息が詰まった。さっさと頷けば良いことなのに、私の身体はペダルを漕ぐ両足以外固まってしまったようだった。気まずい沈黙。自分の耳の端が徐々に熱くなってくるのがわかった。薮内は顔をひきつらせたまま微笑んでいた。
コンビニの前で彼女と別れた。じゃあね、元気でいろよ。彼女は取ってつけたように大声で言った。
「うん……」
私のその声は、たぶん誰にも聞こえないくらいに小さくしぼんでいただろう。
さみーんだよぉー、もうっ! 跳ねるような声で去り際に叫び、薮内はファミリーマートに向けて自転車を走らせていった。
ただぼうっと木工室の隅に突っ立って、看板を作りつづける柴谷さんや河部の姿を眺めていた。狭い部屋に、十人弱くらいの人が詰め込まれているんだろうか。授業がないかわりに、今日は一日中、今度の土曜日に開催される文化祭の準備に充てられていた。男子も女子も派手グループはどこかをほっつき歩いているんだろう、誰の姿も見えなかった。美術部の苅野がジュース販売の看板を描いている。無駄に凝っているわりに独創性がなくて、地味な絵だ、と覗き見しながら思う。缶から液体(というか、ジュース)が噴水みたく噴き出ていて、その液体がそのまま「ジュース」というなんのひねりもない文字になって看板の真ん中を占めている、みたいな構成。その苅野の指示でペンキを持ってきたり背景を塗ったりしているのは側近の永作だ。要するにオタク仲間。空気読めない二人組、みたいな汚名をクラス中から買っているが、本人達は気にも留めていない、ていうか、よくわかってないらしい。むしろ、美術部でもなんでもない女子達――柴谷さん達――の作るアイス販売の看板のほうがよっぽどセンスがあると私は思う。あ、今柴谷さん笑った。隣の三木さんも、古川さんも。なぜか声を押し殺して笑い合っている。静かな狭い部屋にくっくっというひきつった笑い声がひびく。乾いた笑いってこういうことかな。
会話も必要最小限、みんな黙々と作業をこなしていた。私はその光景をあまさずに見つめた。自分たちがいつも連れ合っている各々のグループで作業を分担しているため、私みたくどこにも所属のない人間は、自然と何もすることがなくなるのだ。
私はずっと見ていた。昨日寝る前に何を考えていたかとか、今日の朝何を食べたかとか、色々と思い出しつつ。手伝うこととかあれば、なんだってするのになぁなんて、いらない思いも巡らせながら。残念ながら誰も声をかけてはくれない。心の底では、でくの坊とか、役立たずとか、仕事しろとか、そう思われてるんだろうな、心が痛むなぁ。もう慣れたけれど。
そう思いながら一人、川につっかえた木の棒みたいにただ直立していた。
今頃、家を出たのかな、彼女は。
昨夜切ったばかりの自分の爪を眺める。興味本位に使ってみた爪磨き――ペットボトルの首におまけでついてたやつ――で磨いた右手人差し指の爪。よく目を凝らせば、白いまだらな光を集めてぴかぴか輝いている。のこぎりで看板を削っている音がする。唯一、部屋の中でうるさく主張してる音。
外に出ようかな。だけど、そうしたところで何かあるわけでもないし、同じクラスの人に見つけられたら気まずいし。そんな考えがくるくる回り巡っているあいだも、初めての文化祭のために一生懸命手足を動かしつづけてるクラスメイト達。窓外からの木漏れ日が端々に懸かって、なんてことのない柴谷さんの横顔をぐっときれいに映していた、そんな気もする。
「あ、わりい」
私の身体は部屋の入り口をふさいでいたらしい。看板を廊下に運ぼうとしてた友永達の邪魔になっていた。少しだけ身を横によせた。難なく通り過ぎてくれた。ただ、肝心の看板は縦にしないと部屋を抜けられないらしくて、その後はそれなりに難渋していた。
――羽?
――うん。あればいいなって。
――そりゃあ誰だって思うよ。アタシだって欲しいよ、そんなもの。
――違うよ、たぶんさ、つかさのイメージしてる羽と、アタシがイメージしてる羽ってちょっと違ってると思う。
足音が廊下から近付いてくる。
――なんていうかさ……
なんだか今となっては聞き慣れた音のような気もする。コツコツ、と、ペタペタ、の中間みたいな靴音。スニーカーなんだけど。
――口で説明出来るくらいなら、アタシこんな話してないよ。
なにそれ、とその時の私は言ったような気がする。靴音は私の眼前、入り口のそばでふいに止まった。そうして目の前に現れた寝ぼけまなこのキョーコは、いつもの通りに私の身体をつーっと眺めて、
「おはよー、つかさ」
そう言った。
私も、おはよ、と返す。
職員室前の廊下で三条さんとすれ違った。一人で歩いていた。キョーコは彼女にも「おはよう」と挨拶したけれど、返事はなかった。
「ほらやっぱり、アタシ嫌われてるでしょ」
そう言って微笑んだあと、おもむろに携帯を開く。
「あれ、ここ何階だ?」キョーコがそう訊ねるので、
「二階」と私は答えた。
「ん、ホントに?」
「うん」
そのあとすぐに渡り廊下へ出た私達は、その場に立ち止まって外の景色を眺めてみた。その眺めからすると、私の言った通りここはまぎれもなく二階だった。得意げになってキョーコの方を向いた。
「だって、まだあんまし歩いたことないもん、学校なんて」
その言葉があまりに本音っぽかったから、私はおもわず苦笑してしまう。
「アタシもそうかも」
「でしょ? ね、帰宅部なんてそんなもんなのよ。二学期になったって、たいして慣れないし」
「だから遅刻すんだ?」
一瞬間があいて、キョーコは「もう……」とつぶやきながら私の肩を小突いた。笑っていたようだからひと安心だ。
二号館校舎が右側の景色を覆っていて、左側にはさっき通った本館(一、二号館より少しこぶり)がある。真下は中庭、先生達の自動車が白線に沿って行儀良く並んでいる。教室の窓からは誰かが顔を出して、下の中庭にいる人と話している。大声で叫んでいるけれど、風の音にまぎれてすぐにかき消された。校舎や中庭を行き過ぎた私の視線の先にはグラウンドが映る。それにも飽きて目を前へ前へ向けつづけると、最後に突き当たるのは、遠くにあってこの町を囲んでいる小高い山々。
緑の木々の中でも、ぽつぽつと紅葉が始まっていた。こうやって秋になるんだな、ふとそう思う。
「もう、夏なんてとっくに過ぎたんだね」
「そーね……もう、とっくに」
キョーコも私に隣り合って、遠くの山に刻まれた季節の変わり目に瞳を凝らす。
「あれ? また曇ってきた」
「ホントだぁ……」
ほんの少し私より低い位置にあるキョーコの肩、かすかに私の身体をさわった。キョーコの身体が動いたのは、ポケットをあさっていたせいだ。そのポケットから携帯を取り出して、寡黙でドライな午前中の空を――カシャリ。何の工夫もない初期設定のシャッター音。
「つかさ、学校終わったら写真屋さん行こうよ」
「え、こないだ寄ったばっかじゃん」
わたしがそう言うと、だよね、とつぶやいた。多少の苦笑いも含めて。
「だって最近さ、キレイじゃん? すごく」と、山の上の広い空間――いつもと同じ、空――を指し示す。
「そう?」
「アタシ的にはそうなのっ。……どう考えてもそう。空もアタシに撮られたがってんのよ、たぶん」
言い終わると、キョーコはあたりをきょろきょろ見回してから、
「座ろっか」
うん、と私は答える。
そのまま二人とも、渡り廊下のたもとにぺたんと腰掛けた。からからに乾いた空気。すりガラスが張られたうしろの壁にもたれる。ひんやりした感触がブラウスを通して背中に伝わった。
「今日は何時に起きたの」
私がそう言うと、九時半、という答えが返ってきた。
朝、鏡を見ながらたっぷり時間を掛けて髪を梳く時間で、学校に行く覚悟を決める、いつかキョーコはそう言った。指先でそれにふれると、彼女は少しだけ身を縮めてくすぐったそうなそぶりを見せた。キョーコの髪は、今日もさらりと私の指を通った。
「ところでさ、何してたのさっきまで」
「だからぁ、昨日も言ったじゃん、文化祭の準備」
「ふうん。で? つかさは?」
「え、アタシ?」
「え。じゃないのっ、どーせ何にもしてなかったんでしょ」
「……当たり」
キョーコはけたけたと笑った。するとやっぱり、私だってつられてしまう。
「どう? どこも絡んでなかった?」
私はしっかりと頷く。本当は少しだけあやしいところがあったから、こっそり梳いて直してあげていたのだけど。
「よかったぁ」
また誰かが目の前を通り過ぎていった。どこのクラスだろう、背の低い男子三人、ゲームか何かの話をしながら。ここに座り込んでいる間中は、そんな人達の姿がやけに視界に引っ掛かった。やっぱり、みんな動いていないと落ち着かないんだろうな。
それだからいっそう、何にもせずただぼーっとコンクリに腰をくっつけている自分達の存在を不思議に感じた。なんだ、これ。そんでもって、
私達は誰だ? って。
「あまりものみたいだね」
私がそう言うと、それまで俯いていたキョーコが緩慢な動作で首を上げて、なにそれ、とぼそり。
なぜか私は、キョーコのそのまっすぐな瞳をじっと見つめてしまう。意識してるわけでもなく、ごく自然に。理由も何もない。普段なら、私のその行為にキョーコは呆れたような様子を見せるけれど、今日は特に咎められもしなかった。いいかげん慣れたのかな。あまりもの、という言葉を小さく復誦しながら、キョーコはスカートの裾を軽く指でつまんだりしていた。
風の裂ける音がした。っていうと何だかよくわからないけれど、それは本当にそんな感じだった。私が座ったまま空を見上げたその時、渡り廊下のちょうど真上を、一羽の鳥が飛び去っていった。羽をぴいんと広げたまま、限りなく完璧に近いフォルムでの、滑空。すごいスピードだった。風を裂いて飛んでいった。――シュバッ! そんな音が自分の耳に届いたような気がした。
ほとんど一日中、その架空の音は私の頭の中でエンドレスに鳴りつづけた。
「鶴巻さん葉山さん、アンタらさぁ、今日何も仕事してないでしょ。そのせいかどうかわかんないけどさぁ、まだアイスと唐揚げの看板、色塗りが途中なのね。放課後残って終わらしてよ? いいでしょ? アタシ達帰るからね?」
終学活の手前の休み時間、釘を刺すようにそう言われた。佐々岡美咲はそのあと、言ったよ言ったよとぼそぼそ囁きながら、嬉しそうに自分のグループが集まる席へ帰っていった。
「アタシはいいよ、別に」キョーコが言う。
「残るってこと?」
「うん」
何で私達二人にだけなの、他にもサボってた人たくさんいたじゃん。……だけどわかってる、私達が一番言いやすいんだって。拒否や抵抗なんてするはずがないとクラス中に思われている。なめられてる。
写真屋さん、今日は行けないのかな。
結局、佐々岡の言いなりになってしまった。
私達はパソコン室の奥にある狭い暗室で体操服に着替えてから木工室に向かった。中に入ると、二つの割と大きめな看板がほとんどまっさらの状態で放置されているのがすぐ目についた。
「てか、ペンキなんて使ったことないし」
キョーコは看板のそばにしゃがんで、わずかに色を塗られた箇所が乾いているかどうか指でふれて確認した。
「アタシもだよ」
看板を挟んでキョーコの向かいに立つ。
とりあえず、背景の白(その箇所がちょうど塗りかけになっていた)を塗ってみることにした。手に取った刷毛を物珍しげに眺めているキョーコのそばに、白のペンキが入った缶を差し出す。キョーコは缶の奥まで刷毛を突っ込んだ。そして何の躊躇もなくぺたぺたとペンキを塗り始めた。そのあとも彼女は、一人黙々と大きな看板に白を塗りたくっていった。
その三十分後、ようやく背景を塗り終えた。予想よりもきれいに出来たことがキョーコにも嬉しいみたいだった。
「次は……どうする?」
私は、薄く引き伸ばして塗られた白を見つめながら言う。
「ちょっとタイム。休も? 五分間休憩ね」
ダメ? とねだるように言う。その目が切実過ぎていたから、私は頷くしかなかった。
「ありがと」
私は、ペンキの入った缶を彼女の手元に持ってきてあげる作業しかしていない。
「ジュース買ってくる。キョーコは何がいい?」
「へ?」
「体育館のそばの自販機」
「あー、そんな……。ありがとう、つかさ」
体育館に行くために一旦校舎から外に出た。やっぱり今日はとても寒い日だ。風が膝下を通るたびに身が震えた。ブレザー、明日から着ていこうかな。
自販機のそばのベンチに一組のカップルが腰掛けて喋っていた。ジュースを買うために仕方なく近寄っていくと、片一方がうちのクラスの男子であることに気付く。二人ともと目が合って、束の間、気まずい沈黙が流れた。コソ泥みたいに素早くコインを入れて、ボタンを押して出てきた缶をつかんで、早足でその場から逃げた。女の方はほとんどずっと私をにらみつけていた。
その一部始終をキョーコに話すと、
「知ってたよ、それ。アタシ休み時間に盗み聞きしてたもん」
と、そっけなく言って私の手から缶を受け取り「あ、ありがとね」
「大丈夫よ、アタシ何にもしてないから。これくらいしか出来なくて」
「ううん」
二人とも無言のまま、ファンタゼロレモンを半分くらい飲んだ。グラウンドで練習している野球部の掛け声? みたいなのがここまで響いていた。うるさいなぁ、邪魔しないでよ、そう思う。
「買ってくる、って言ったでしょ、つかさ」
「ん? ジュースを?」
「うん」
「言ったよ」
「でしょ。あのね、そこがアナタらしいなって、アタシは思ったわけ」
首をかしげる私。キョーコはおかしそうにくすくす笑いながら、
「普通だったら『買いに行こうよ』って言うんじゃない? 女の子って」
「そうかなぁ」
「そうよ」
「だってアタシ、何にもしてないし」
何に対してかわからないけれど、キョーコは私が話すたび、しきりに頷いていた。
「アタシ、女子のそういうとこ大っ嫌いなの」大っ嫌い、のところをキョーコはことさら強調した。「一人で何でもしろってわけじゃないけど……何て言うの、そうやっていつもくっつき合って行動しなきゃいけない、みたいなところ。そんなのしなくても、ちゃんと信じてたら、大丈夫なのに」
「うん」
「あ……たぶんアタシ恥ずかしい話しちゃってたでしょ」
「そんなことないよ」
「なんか、信じるとか信じないとか言ってなかった?」
「言ってた言ってた」
試しに私は笑ってみる。すると、キョーコも笑いかけてくれた。
彼女の言う通りだと思った。集団でトイレに行くことも、一緒に街へ出て撮ったプリクラを自分の携帯に貼ることも、結局はクラスという群れからはみ出さないための儀式でしかないのだ。学校に馴染むってつまりはそういうことだ。
そんなことを思いながら、自分達で作った休憩時間五分なんてとっくに過ぎていることに気付き、作業再開。次は黄色で文字の部分を塗ることになった。
「アタシ、刷毛洗ってくる」
そう言うとキョーコは、
「もう、何よそれ。おもしろいなぁ」
「?」
「手洗い場くらい二人で行ってもいいでしょっ、ってこと!」
あ、それもそうだな、と気付いて、一人で勝手に赤くなった。
だけど本当の問題はそのあとに起こった。白のペンキが、水を掛けても一向に剥がれないのだ。洗いも使いもしないまま十分間放置するだけでペンキは固まってしまうということを知ったのは、もちろんこれが初めてだった。爪でこすっても無駄なあがき。五分間二人でそれと格闘したけれど、結局あきらめることにして、刷毛は木工室の奥まったところへ隠した。そこは使われない板切れやドリルや角材が山積みされていて、とりあえず年末の大掃除でもしない限りこのペンキまみれの刷毛は見つかりそうになかった。もうひとつだけ木工室の机に置いてあった新品を使い、大事に塗って扱って最後まで完成させた。
携帯を開く。六時五十二分と表示されていた。そんなにも長い時間をこんなくだらないことに使ってしまった、という切なさもあったんだけど、キョーコと顔を見合わせるとなんだか不思議な達成感がこみ上げてきて、おもわずハイタッチ。軽めだけど。
これでやっと家に帰れるんだ、かすかにそう思う。
「ちょっと待って、待ってよ? 最後に……」
そう言って、キョーコはそこらへんにあったシャーペンを使い、看板の裏に張りつけられた木枠の裏になにやら書き始めた。
「サインっ。アタシが作ったんだよっていう」
看板と平行につけられた木枠の裏側をのぞくと、たしかに、誰にも見えなさそうなところにひっそりとキョーコのそれが印されていた。
ちょっと迷ったけれど、
「アタシも、いい?」
「いいよ、どーぞ」
渡されたシャーペンはずっと部屋の空気にふれていたからか、やけに冷たかった。窓の外から白い月が見えた。
私達が『写真屋一番館』に訪れたのはその二日後だった。学校から歩いて五分ほどで着く、細い路地と国道の境目にある小さな店だ。
中に入ると小柄な男の店員さんが「いらっしゃいませ」とつぶやいて、そのあと私から目を逸らした。この人、ひょっとして私達と年もそう変わらないんじゃないの、といつも思う。
「あの、ケータイで撮ったのを写真にしたいんですけど」
「あーはいはい。お客様がセルフでプリントしていただくのと、こちらで現像させてもらうのとありますが……」
「あ」キョーコは携帯を店員さんの胸元あたりに差し出して、「お願いします」
「はい」
写真が出来上がるまでのあいだ、私達は店内の椅子に隣り合って座り、キョーコが持参してきた文庫本を二人で読む。一言も話さずに、キョーコの膝元で本を開いて。この店にももう何度となく訪れたから、いいかげんあの店員さんもこの二人に慣れたのかな。
今二人が読んでいるのは、堀辰雄の『風立ちぬ』。
読むスピードは私のほうが遅いので、自然とキョーコに待ってもらう形になる。開かれたページを端まで読み終えると、ページの端を押さえているキョーコの中指か薬指を、指でぽんと叩く。するとキョーコはページをめくってくれる。その繰り返し。
活字を読むと数分もたたないうちに頭がこんがらがって嫌になる私なのに、ここでキョーコと読むこのひとときだけは、なぜだか集中して字を追うことが出来る。不思議だ。
「出来ましたよ」
店員さんの金属的な声が私達に向けられた。その声がレッドカーペットに出てる若手芸人の誰かに似ていたような気がしたけれど、名前も顔も思い出せない。キョーコは、はーい、と返事をしてカウンターに向かった。お会計の時に、何か店員さんと話をしていて、かすかに笑い合っていた。なんだろう、「キレイな写真だよね」とか「どうして空の写真ばかり撮るの?」とか言われたのかな。もう私達二人とも、特にキョーコは顔なじみだしなぁ。
それにしても、キョーコのあんな笑い顔を見たのはあれが初めてだった。愛想笑いというか、外面だけの会話というか、そういうことをしないのが彼女だったはずなのに。
別に見損なったわけじゃないけれど。
2
文化祭はあっというまに始まり、そしてその速度を保ったままあっというまに終わってしまった。
私の一日。午前中は、休憩室で上映している映画(と言っても、ツタヤで借りてきたDVDをプロジェクタで小さなスクリーンに映してるだけ)の見張り番をしていた。私の担当する仕事はそれだけだった。暗幕で覆われた教室くらいの大きさの部屋を真っ暗にして、椅子に座ってひたすら映画を観ていた。クラスの誰かが借りてきたんだろうけど、『トランスフォーマー』の戦闘シーンは迫力があって、そこそこ面白かった。生徒達がぽつぽつと部屋に入ってきては、だるそうに画面に目を向けてじっと座っていた。窓も戸も閉めきっていたからか、部屋の中は不自然に湿気がこもっていた。
キョーコもそこにちょこっとだけ顔を見せてくれた。友達が来るから案内しなくちゃいけないの、と言われた。ちょっとびっくりした。「いいよ」と私は言った。何が「いい」のかなんて口にしたくもなかった。暗闇の中でキョーコの顔は輪郭しか見えなかった。
午後。休憩室の見張り番も終えてやることがなくなった私は、態度にこそ出さなかったけれど途方に暮れていた。キョーコがいない。一人。何をしてこの時間を乗りきれば良いのだろう、と。
一人の遊び仲間もいない自分をあらためて情けなく感じながら、ふらふらと廊下を歩いてみた。放送で音楽が流れていた。J-POPだけど、その曲がすごく耳に残ったので、後日私はキョーコに訊ねてみた。「あれ、誰が歌ってるの?」。阿部真央、という女性シンガーソングライターらしくて、曲名は『ふりぃ』というのだそうだ。
そんな風にしてBGMだけに耳をすましながら歩いても時間は一向に進んでくれなくて、あーどうしよう、と心の中で何度も唱えた。ひょっとしたら小声でつぶやいていたのかもしれない。だってあいつは、そんな時の私の顔を驚いたように見つめてたから。
「あのー……ここの生徒さんだよね?」
正面に回り込むでもなく、横からそのまま声を掛けられた。その方向を向くと、さっき言ったように、彼がじーっとわたしの顔を見つめていた。黒のパーカーの下に赤いチェックのシャツを着込んでいた。なんとなく、学生だろう、と思った。別に顔が幼かったわけじゃない。
「何ですか?」
と私は言った。精一杯、警戒心を示したつもりだったけれど、うまく伝えた自信はない。
「あの、将棋部ってどこでやってるか知ってる?」
じっと目を見据えられたままそう訊ねられた。
「えっと、三階、だと思います」
なぜか、校内図が書かれたパンフレットを渡してしまった。それに気付いてはっとなった私は、そのまま一目散に彼から逃げ去ることにした。顔だって真っ赤になってたのかも。「あー、ありがとう」とか聞こえたような気もする。
冷静になって考えてみると、たしか将棋部の催しは四階だった。
キョーコを窓の外から見つけたのはその数分後だった。一人で出店の繁盛している駐輪場をすたすた歩いていた。ああいう時のキョーコの堂々とした立ち振舞いが、いつも私を感心させる。そのまま上から見ていると、彼女はアイスクリームを買って、私のいる二号館へ入っていった。合流出来るかもと思って、階段まで少し早足で歩いていくと、また彼に会った。階段を上がってきた彼と、階段を下りようとした私。「ばったり」という言い方がぱちりとはまる格好で向かい合ってしまった。二人とも束の間に顔を見合わせたあと、気付かぬふりで通り過ぎようとしたけれど、「ありがとうね」と彼が言ったので私も立ち止まらなければならなくなった。
「これ返すわ」
彼は文化祭のパンフレットを私に差し出した。ぎこちない動きでそれを受け取った私。
「アンタ、いつもそうやって一人でいるの?」
嫌味っぽくもなく、無邪気な笑みを含ませながら彼は言った。
「うん」と私は答えた。
「ふうん。まあ、大変だよねぇ、ほら、学校って閉鎖的なとこだから、とりあえず集団のどっかに入らないとやりにくいしね」
「閉鎖的」
「うん。ま、頑張りなよ。オレも頑張るから」
彼はちょっと俯いてから、三階の階段を歩き出した。
「え、えっと……」
咄嗟に、うわずった声が出た。
彼はこっちを振り向いた。
「あの、アタシ、友達います」
キョーコのすまし顔を脳裏に浮かべながら言った。すると彼はおもいきり不自然に微笑して、
「ああ、そう。ならよかった、オレと同じじゃなくて」
四月以来のブレザーを着て家を出た。向かい風をふせいでくれて、暖かかった。日曜日だったけれど、午前中だけ登校して全校生徒で昨日の文化祭の後片付けをした。例によってキョーコと私は働かずに、校内をぶらぶら散歩して回った。どう、楽しかった? と問われた。文化祭のことだ。私は言葉に詰まった。変な男の子と話をしたこと、言おうと思ったけれどなぜだか口に出せなかった。そんなことは恥だと思ったのかも知れない。何も言わない私でも、キョーコは特別つまらなそうに振舞ったりはしなかった。そうだよね、と一言つぶやいただけだった。
「葉山ぁ、お前倉橋に呼ばれてたぞ」
廊下でのすれ違いざまキョーコに声を掛けたのは、トシハル、とみんなから呼ばれている同じクラスの男子だった。苗字までは知らないけれど。
「え、誰って」
短い髪をワックスで逆立てたトシハルに、キョーコが訊ねる。
「倉橋先生」
トシハルは少しだけ声のボリュームを上げた。
「あぁ、わかった。ありがと」
トシハルが去っていったあとに「何かしたの、キョーコ」と訊ねてみた。
「ううん、たぶん奨学金のことだと思う」
「あ……そうか」
キョーコの家にはお父さんがいない。
ちょっとだけ、肩透かしを食わされたような気分になった。
キョーコが職員室に行ったおかげで何もすることがなくなった私は、ひとまず木工室を訪れてみた。そこでは男子達の手によって使い終えた看板の解体作業が着々と行われていた。のこぎりで板を切ったり、足で踏みつけて割る人もいる。バキバキ、ベリベリと木は割られ削られていく。そのこぢんまりとした破壊の音が妙に心地良かった。
と思ったら、またトシハルが私の目の前にいる。
「お前らだろ? これ」
直方体の角材の切れ端を手に持っている。その角材の表面には、へんてこな絵と、T&Kというイニシャルが筆記体で綴られていた。間違いなく、あの日の放課後に私達が書き記した「サイン」だった。
何でそれをコイツが持ってるんだろう、とまず最初に思った。次に、何か答えなくちゃいけない、と思った。
「つかさ、だったよね、鶴巻の名前。で、葉山は……恭子でしょ? たしか。お前らがこないだの放課後、二人でペンキ塗ってんのみたからさぁ、だからこれもそうなのかなって」
まさか、私達のサインがこんな奴の手に渡るなんて。頭がぼーっとしてきた。誰にも見つけられないまま、清掃工場でひっそりと燃やされるはずだったのに。生憎、現実はそんなにロマンチックに出来てはいないらしかった。
「そうよ。私と、キョーコが書いたの」
ぽろりと、言ってしまった。
誰にも告げず心に秘めておくべき言葉は、どうでも良い場面でふいに身の周りへ漏れたりする。言った直後、苦痛にも似た後悔が襲ってくるのは大概そういう時だ。私の不注意のせいなんだ。
「いらないの?」
「わかんない」
私がそっけない返事をすると、トシハルは人のよさそうな笑いを見せた。
午後十一時時半。片付けも終わりかけてきた頃、キョーコは木工室に戻って来た。心に安堵が広がっていって、そのままの気持ちで私はキョーコに駆け寄った。だけどそれより先にトシハルがキョーコの前に立ち塞がって、とまどい気味の彼女に何かを囁き掛けた。彼の片手にはまた、私達のサインが入った角材の切れ端が握られていた。
何だか嫌な予感だってした。
すると、キョーコが突然、怒気のこもったような低い声で、
「知らない」
とトシハルに言った。だけどそのあともトシハルは引き下がらずに、ぼそぼそと小声で詰め寄っている様子だった。トシハルの背中の向こうに見えるキョーコの顔が明らかに青ざめていた。
「何? 返して欲しいの?」
トシハルの軽薄な声が数メートル向こうで聞こえてきたその直後、キョーコの目からは大粒の涙が溢れ出していた。キョーコは両手でトシハルの身体を突き飛ばした。トシハルはわずかによろけたけれど、それだけで、転んだり倒れたりすることもなかった。そのあとも、キョーコは泣きながら何度も執拗にトシハルを突いた。殴っているようにも見えた。少しのあいだ呆然としてその光景を見ていた他の人達は、慌ててキョーコをトシハルから引き剥がした。
「何? 何?」トシハルがわざとおどけたように、半笑いで言った。
「うるせーんだよぉ、何で邪魔すんだよっ」
三人くらいの男子達に軽く身体を押さえられたキョーコが、吐き捨てるようにそう叫んだ。そんな言葉遣いを聞いたのは初めてだった。
なんなんだよ、キチガイかよ、と小さな声でつぶやくトシハル。
私はずっと傍観していた。
「キョーコ」
私が呼び止めると、一瞬だけこっちを振り向いた。彼女は木工室を出ていった。
キョーコがいなくなったあとの部屋は、ざわめきと、面白いものが見れたとでも言いたげな笑い声、口移しで飛び交う情報で溢れ返った。あと何分この熱気はつづくんだろう。それに、キョーコは何であんなことを。
「違うの、違うの、あのね、ちょっと聞けって! だから、あの、アイツが勝手に殴り掛かってきたの。マジびっくりした。てか引いた」
そこで笑いが起きる。群集に囲まれたトシハルが語り始める。
「ほら、これ」
トシハルは床に落ちていた角材の切れ端を手に取った。瞬間、私の血の気もすっと引いた。
「これお前と鶴巻が書いたんだろ? って言ったの。オレ、これ返すつもりだったの。鶴巻がいらないっていうから」私の名前が出されると、みんな一斉にこっちを振り向いた。「けどなんかアイツ、知らないとかってシラきりやがって、で、鶴巻がこれはお前と二人で書いたって言ってたけどな、ってオレ言ったのね、そしたらまた違う違うってシラきり通すわけよ、でなんか、オレもさすがにめんどくなってきたから、もうそこはアイツに合わせて、あっそう、じゃあどっか捨てとくわって言ったの、そしたらよ? そしたらアイツ何かマジになって俺を突き飛ばすのよ、マジビビったよ? あれは、まあでも……あの、一応のところ女だし? オレもアレだし、レディファーストですから? とりあえず何もせずに甘んじて攻撃を受けてやってたのよ、まあ、段々泣き顔になってくとこ見たらさすがに逃げよっかなとは思ったけどね、お前ら早く助けにこいよ使えねぇな! おまっ……お前がもっと早くアイツをホールドしてくれたらもっとさくっと収まったかもしんねぇじゃん! あーもーめんどくせぇ。マジアイツ何なの? 何なの、アレ、本気で腹立つんだけど……」
延々と喋りつづけていた。
「オレ葉山の胸さわったかも」
隣の男子にぼそりと耳打ちしながらニヤニヤ笑っていたのは、さっき興奮したキョーコを押さえつけた奴らの中の一人だった。殺してやりたい、刹那にそう思った。
「えー、掃除はないのかな? ないね。じゃ、終わりましょーか」
帰りのホームルームでも、先生の口からキョーコの話題にふれられることもなく、あっさりとさようならをした。一時間前の騒動以降、私はキョーコと話してもいないし、近付いてもいなかった。
号令をしたあと、みんなは一斉に駐輪場へと向かった。教室中に話し声が満ちて、ざわざわと落ち着かない。私は騒がしい教室の中にたたずんで携帯電話をいじっているキョーコを見た。たまらなくなって駆け寄ろうとすると、ポケットの中の携帯が小刻みに震えた。
2009/11/2 00:35
From:葉山恭子
Subject:無題
学校から出てサンシャインで落ち合お
いい? アタシについてきちゃダメだからね?
一人で来るのよ?
「窓側の人、ちゃんと閉めていきなさいよー」
宇佐美先生ののんきな声が教室に響く。窓が閉まると同時に風が止んだ。ちょっと目を離した隙に、キョーコは教室からいなくなっていた。私は少しゆっくりめに自転車を漕いで、小さなスーパーマーケットに向かった。
一階と二階をつなぐ踊り場のベンチで、キョーコは文庫本を読んでいた。私はそっと寄っていき、隣に腰掛けた。背中側にある壁には様々な色の図形を切り貼りしたような絵が一面に描かれていた。
「ごめんね」
文庫本を閉じ、私の目を見ながら、彼女は言った。
「ううん、悪いのはキョーコじゃないよ」
そう、悪いのは私、あとはあの男だ。
「みじめなとこ、見せちゃった」
「ううん」
「つかさに、なんて言おうかって考えてたの。もしかしたら絶交されるかも、とか」
私は、わざとらしいくらいに強く首を振った。あ、ありがとう、とキョーコはささやいて、そしてつづける。
「やっぱり、謝らなくちゃいけないなって思って。つかさに話せたらね、一番はじめに謝ろうと思ってたの」
買い物客がたまに階段を通る。エレベーターもあるけれど、二階建てなのであまり需要もないんだろう。二階は外の駐車場が中心で、その他には小さな理容室と休憩所があるだけの寂しい場所だった。私はキョーコに何を言って良いのかわからないでいるまま、ただ目線をそのOL風の買い物客に泳がせた。すらっとした長い脚をしていた。
「つかさはすごく迷惑したと思うの、恥ずかしかっただろうし、傷付いただろうし」
「そんな、おおげさな……」
「だって、あのサインは私達のものだったのよ。私は……すごく悔しかった、悲しかった。ね、つかさはそうじゃないの?」
「ううん。私だって悔しいよ?」
「そうよね。……悔しいよね」
「うん」
すぐそばで呼吸のような嗚咽が聞こえた。それは彼女の小さな身体から出た不確かなしるしのようだった。俯いたキョーコが見せる長い髪に目をそそいだ。
「バカだ、アタシ。そう思うでしょ、つかさも」
涙声だ、かわいそうに。
いつのまにか、キョーコの身体に自分の腕を回していた。きっと、私達二人、今日は調子が悪かっただけだよね。
頭の回転はおんなじだよ。一緒に同じ場所にいようよ、キョーコ。
3
キョーコに対するいじめはその頃から始まった。数人の女子達がいじめの主犯で、中心になっているのは例のトシハルと仲の良かった中西彩香だった。
最初のうちは、授業中などにキョーコに聞こえるようなひそひそ声で悪口を言い合うことが主だった。「根暗」とか「チビ」とか「のくせ、視界にいたら邪魔」だとか、つまらないことを、キョーコの真後ろの席の中西彩香がさもだるそうに両隣の女子に言う。キョーコに向かって、ではなく、自分の仲間に向かって。その両隣の女子達はそれを聞いて面白そうにくっくっと笑いながらも、だよね、とか、言い過ぎだって、とか時折相槌を挟む。するとそれに気を良くした中西彩香の言葉がより凶暴になっていく。キョーコはずっと俯いて、ノートを取っているふりをつづけていた。休み時間に次の授業のある教室へ移動する時は、中西彩香はわざとキョーコの身体にぶつかるように前を通ったりした。小さな身体のキョーコはそのたびに、いつも身をよろけていた。一度、強く肩をぶつけられて本当に倒れたことがあった。私は何とか彼女のそばにいようとはしていたけれど、キョーコ自身も私にあいつらを近づかせまいとしているかのようだった。休み時間になると、私を置いて一人でさっさと次の教室に向かってしまうのだ。そのタイミングをいつも狙われていた。
今までも、キョーコがクラスの中で浮いている雰囲気はあった。私も十分に浮いていたけれど、私の場合は「結果浮いてしまった」だけだと思う。彼女は入学した当時から、自分の持っている才能、それだけで周囲からぴしゃりと隔たっていた。そして今回のトシハル事件。みんなが思っていた彼女に対する未知数の恐怖みたいなものが一気に膨れ上がって、きっとその成り行きで彼女はいじめの標的にされてしまったのだ。
キョーコは変わらなかった。どんなことをされても、いつも通り一週間に一回は遅刻して来たし、テストでは文系だけ良い点数を取った。写真屋さんにも二人で行くし、こないだはそこで『雪国』を最後まで一緒に読みきった。
けれど、学校の中で私とキョーコが話すことは、最近めっきり少なくなってしまった。キョーコが私を遠ざけようとしているのだと思うけれど、ふいに「私のほうでも……」なんて気になる。そんなことはないはずなのに。
何をされても抵抗しない彼女に気を良くしたのか、いじめは日に日にエスカレートしていった。ある曇天の金曜日、二時間目の数学の授業の途中で教室に入ってきたキョーコの足元には紺色の靴下だけしかなかった。休み時間にそのことを問い詰めると、案の定、上履きが靴箱からなくなっていたのだと言う。
「あーあ、これから足元が寒くなるのに、参っちゃったな……」
本気とも冗談とも取れないトーンで、キョーコはぽつり。
「ね、放課後でいいから、一緒に捜してくれる?」
「うん、もちろん」
にこり、という風な笑顔を作った。自然に出来ていたかどうかも、キョーコが私のその顔を見ていたかどうかもわからないけれど。
放課後、一時間くらい教室や玄関の周りを捜し回って、やっとふたつとも見つかった。何てことはない、靴箱の上に放り投げられていただけだった。だけど、私達の背丈じゃとても届かない場所だ。キョーコは脚立を事務室から借りてきて(どんな理由をつけて借りたのかは謎だけど)、それによじ登った。上履きはどこも汚されてもいなかった。キョーコは取り戻した自分の上履きを私に見せびらかすようにして、それからけたけた笑って、
「なんか、ドラマみたい」
『YUTAKA』は私の地元にあるスーパーで、ここにキョーコと来るのは初めてだった。衣料品売り場やレストランや靴屋さんなど一通りは色んな店があるんだけど、こないだ二人で行ったサンシャインより更に人気が少ない。平日なんて数人のおばあちゃんと店員しかいない、半径一キロ以内の地元住民にしか利用されないような寂れたところだった。
「アタシね、この町に須崎のおじいちゃんのお墓があるの」
「ん、キョーコのおじいちゃん?」
「ううん。えっと、アタシも時々こんがらがるんだけど、ウチのお母さんのお母さん、のお兄ちゃんらしいの」
「らしい?」
「だって、顔もほとんどおぼえてないもん、アタシが小さかった時に死んじゃったから」
店内を歩きながらそんな話もした。
棚の八割方は本が置かれていない小さな書店を見て、キョーコは驚いていた。すごい、本当の田舎ってこんなカンジなんだね、と。
「ひょっとしてジャンプとかも水曜日に来たりするんじゃない?」
「ジャンプ……は、わかんない」
「あ、そっか、ウチ兄貴がいるのよ、だから。つかさは?」
「え」
「兄弟とか、いる?」
「お姉ちゃんが一人。今、東京の大学に行ってる」
「へぇー、そうなんだ、だからそんなカンジなんだ」
彼女は含みがちに笑った。何よぉ、と私は言った。
「おっとりしてるっていうかさ、羨ましいの、素直に」
そのあと奥のファッションセンターで服を買った。店内には、私達と中学生くらいの男の子とそのお母さんらしき人しかいなかった。試着室を二人で占領して、プリーツスカート、ストール、マフラー、フリルチュニック、ダウンジャケット、セーター、思う存分色んな服を着た。結局、私もキョーコも一着しか買わなかったけれど。
だけど、とても楽しかった。こんなに楽しい時間を、私はいつの頃から忘れていたんだろう。
一度スーパーを出てから隣の建物の階段を上がると、そこにゲームセンターがある。窮屈な敷地に一昔前のゲーム機が並んでいるが、中には誰もいない。あ、違う、店番のおばちゃんだけはいる。
キョーコは興味ありげに色んなゲーム機を見て回っていた。
「あ、これ家にあったかも」
アーケードの格闘ゲームだった。キョーコはコインを投入して、おもむろにそれを始めた。ぎこちない動きで操作キャラのごつい男が飛んだり跳ねたりして敵を倒していくのを、私は隣のゲーム機の椅子に座って眺めていた。初めてだというのに、キョーコは四面まで行くことが出来た。ゲームオーバーになり目を画面から私に向けたキョーコに、すごいね、と声を掛けると、
「こんなので褒められても別に嬉しくないし」
苦笑混じりにそう言われた。
いつのまにかお客さんが一人増えていた。私達と同じくらいの年に見える男の子。飛行機を操作して敵を倒すゲームをしていた。私達は彼の背後に突っ立って、ことわりもせず長いことそのゲーム画面に目をそそいでいた。腕前が良いのか、なかなか終わらないのだ。三十分後にやっとゲームオーバーになった彼はようやく、くるりと私達のほうを振り向いた。
「さっきからずっと見てた」
「うん」とキョーコは言った。
その顔に見覚えがあったのは、私だけじゃなく彼もだろう。あ、という顔をして私達はお互いに固まってしまった。文化祭の時に声を掛けてきたあの人だった。咄嗟に目を逸らした。
「ゲームなんかやるの、君ら」
そう言いつつ、目はキョーコの方だけを見ていた。
「ううん、初めて」
とキョーコが答える。
私達二人が彼に教えてもらったことは、さっきキョーコがやった格闘ゲームの必勝法。まず最初に足の長いキャラを選ぶ。ずっとしゃがんで下段キックばかりを繰り返せば、CPU相手なら確実に最後までクリア出来る、そのアドバイス通りにするとキョーコは本当に最終面まで辿り着いた。惜しいのはそこで負けてしまったことだ。
「面白い?」
と彼は、スコアを表示しているゲーム画面をぼーっと見ているキョーコに言った。
「学校よりはマシ」
「あそう、オレもそう思う」
疲れきったような口振りだった。その直後、彼は急にボタンやコントローラーが配置された板に突っ伏してそのまま動こうとしなかった。キョーコがくすりと笑った。
「つかさ、今何時かわかる? 七時半だって。アタシこれから市内に帰んなくちゃいけないのよ」
「ホントだ、キョーコ、大丈夫?」
「ん、たぶんお母さんとか心配してると思う。滅多にこんな遅くならないから。……あ、でもさ、友達と遊んでたって言ったら、たぶん、喜ぶだろうなぁ」
「ホント?」
「ホント」
寝ていた彼がふいに起き上がった。
「アンタら、ひょっとして友達同士?」
「そーよ、何を今更」
私もキョーコに同調するように頷いた。
今日はもうこれくらいで帰ることにして、彼も一緒に三人で店内を出た。外はもう真っ暗、晩秋の冷気がひりひりと顔や手を刺した。
「え、市内から来たの? それ、帰れる? 今から」
彼もキョーコに対し心配そうなそぶりを見せる。
ひとまず、私、キョーコ、彼の順に並んで出入り口のそばにあるベンチに座った。駐車場にはまばらに車が止まっていた。紫色の軽自動車が一台発車して、ゆるりとした速度でスーパーを離れていった。
「タバコ吸っていい?」
「どうぞどうぞ」とキョーコは言う。
マイルドセブンの箱をポケットから取り出して、彼は本当に吸い始めた。
ああオレ? 公文雅人、と彼は自分の名前を口にした。じゃ、公文君だ、とキョーコは言った。私も、くもんくん、くもんくんとぼそぼそつぶやいた。じゃあそれでいいよ、と公文君は言った。タバコの吸い方がとても上品だと思った。
「つかささんって、本当に喋んないね」
「え……そんな、そうかなぁ」
「だってつかさすっごい人見知りだもん、ね」
「そんなことないってば」
「はは、だってオレまだまともに絡んだことないもん。さっきから、こう、こうの絡み(彼は自分とキョーコを互いに指差し合う仕草をした)ばっかで」
「でも、ホントはすごくしっかりしてる子なのよ、ね?」
私はとまどいつつも、小さく首を振って否定した。
タバコの煙が眼前を抜けて、夜空の方へするりと昇った。街灯は波のように滲んで広がって、私達の足元や顔を照らしていた。
4
「そうやって親の願望を子供に押し付けるのって、よくないんだって」
私はフライパンの中の肉を箸でつついて炒めながら、母に言い返す。
「押し付けてなんかないのよ? ただね、お姉ちゃんみたいに自分のやりたいことだけをしようとしてもね、現実は学生が思ってるよりずっと厳しくできてるし、そううまくはいかないもんなのよ。……ホントよ?」
「アタシお姉ちゃんから送られてくる写真好きだよ?」
「そんなこと今言ってないでしょう」
「そーだね、そーでした失礼しました」
まともな人、普通の人になるだけでいい、昔からそう言われて育ってきたような気がする。姉の場合、その反発もあったのかも、なんて。アシスタントの仕事はとても大変らしい。こないだドラマで若手女優が、カメラマンになりたいと思い立ちその後アシスタントの仕事から始めて現場の雰囲気にもまれる女子大生の役をやっていて、うわーこれはキツそうだなぁと思い姉にメールで伝えてみると、実際はあんなもんじゃない、もっと苦しいという返信が来た。
母は玉葱をみじん切りにしている。会話を途切れさせてしまったことを途端に後悔した。
中西彩香が私に声を掛けてきた。昼休みが始まってすぐ、にやにやしながら私の席に寄ってきた。
「びっくりしたでしょ、アタシなんかが鶴巻さんに何の用事があんのって」
私は何も言えなかった。さっきの授業でも、中西彩香は真後ろの席からキョーコの後頭部に何度も消しクズを投げつけていた。
ここのところ、キョーコだってさすがに憔悴していた。放課後に何気ない会話をしている時、ふと俯きがちになって返事さえろくにしなくなることもあった。そんな時私は、何も言わずにただキョーコが話し出すのを待っている。キョーコの頭に消しクズや消しゴムを細かくちぎった粕が飛ぶのは、数学と現社のいつもの授業風景のひとつになった。誰も中西彩香達に口出しする者はいなかった。キョーコは朝から終学活までひたすら彼女達の仕打ちに耐えつづけて、放課になると一目散に帰った。私が放課後も用事のある日は、キョーコは一人で帰った。
「アド教えて欲しいんだけど、葉山恭子の」
中西彩香は、私に向かって「お願いっ!」と手を合わせた。
「あのね、なんつーかね、あの子に謝りたいわけ。ウチらもう絶対に葉山をいじめたりしないから、アタシこれでも反省してんのよ? 早紀に今日めちゃくちゃ怒られたの、アンタやり過ぎって。高校生なんだから、人の気持ちぐらい少しは考えれば? って。これ以上葉山をいじめるのなら絶交するって言われたし。だからもうアタシ、こんなくだらないことやめて仲直りしたいのよ。あ、わかってるよ? そんな簡単に仲直りなんて出来るわけないってことぐらい。アタシと直接絡むのだってヤだろうし。だからせめてメールで謝っておきたいって思ったわけ」
ね、いいでしょ? 私の目を見ながら詰め寄った。そのあと、張り詰めた沈黙が私と中西彩香の吸っている空気を包んだ。
「ダメだよ……ダメ、ゴメン……」
やっとその言葉が自分の口から出せた。
「あ、そう。ま、そりゃそうだよねゴメンね。でも鶴巻さんから葉山には伝えといてよ、アタシがこんなカンジのこと言ってたよって」
「うん」
「OK?」
「うん」
そのまま彼女はあっさりと教室を出ていった。ウソに決まっていた。キョーコに報告するまでもない。勢い良く詰め寄れば折れてくれるとでも考えたのだろうか、遊び半分だろうか。でも正直、怖かった。その次の五時間目も、当たり前のようにキョーコの頭髪に消しゴムの粕が飛んだ。男子一人が新たにその行為に加わっていた。
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「高校生 女子 いじめ」で検索した結果 質問:857件 カテゴリ:0件
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いじめについて。こんばんは、高校生女子です。私は過去にいじめを受けた経験があ…
いじめについて。こんばんは、高校生女子です。私は過去にいじめを受けた経験があります。 …悪い面があったと思います。そこで少し考えたのですが、いじめは全ていじめた側が悪いのではなくて、多少はいじめられ…
スコア:215,161点 – 解決日時:2009/07/03 17:09:28 – 回答数:4 – 閲覧数:28 – 質問した人:tenzen100さん – お役立ち度: – 更新日時:2009/07/03 17:09:28
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
女子高生が怖いです。本当に悩んでいます。私は高校を一年の夏に中退…中退した理…
女子高生が怖いです。本当に悩んでいます。私は高校を一年の夏に中退……中退した理由は、いじめです。しかし、これはいじめと言えないかも知れ…学校は元男子校で、女子はクラス四十五人中十…が原因で、女子高生が怖くてたまりませ…バイトにも現役高校生の方が入ってき…
スコア:214,320点 – 解決日時:2009/11/04 11:44:49 – 回答数:4 – 閲覧数:30 – 質問した人:poru4869さん – お役立ち度: – 更新日時:2009/11/04 11:44:49
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
大阪の高校についてです。
大阪の高校についてです。…明るくしようと思ってます。大阪の高校に通ってる高校生(女子)の皆さん、質問に答えてくれるととても嬉しいです…
スコア:205,868点 – 解決日時:2009/10/26 10:16:48 – 回答数:5 – 閲覧数:75 – 質問した人:ringo_suukiさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/10/26 10:16:48
カテゴリ: 子育てと学校 > 受験、進学 > 高校受験
中三、もう少しで高校生の女子です。私は女子に(軽くですが)いじめられていたことが…
中三、もう少しで高校生の女子です。私は女子に(軽くですが)いじめられていたことがあり、どうしても女子に… …自然と笑顔になれるのですが、女子と話すときは素の自分をだせ…ぎこちなくなってしまいますし… …いじめがトラウマになっているん…
スコア:203,444点 – 解決日時:2008/01/21 22:11:08 – 回答数:6 – 閲覧数:1,697 – 質問した人:setunaf6さん – お役立ち度: – 更新日時:2008/01/21 22:11:08
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み > 友人
学生は友達と何もかも一緒に行動するのが普通なのですか?私の妹は高校生です。別に…
学生は友達と何もかも一緒に行動するのが普通なのですか?私の妹は高校生です。別にいじめられているわけではないみたいです。友達もいます。 …ひとりってのは、いじめられてるから…etc…らしいですが…、まだ高校生の身分でなんです…あるみたいです。女子高生で単独行動…
スコア:202,782点 – 解決日時:2009/11/04 06:17:28 – 回答数:3 – 閲覧数:34 – 質問した人:kokokoronekurimuさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/11/04 06:17:28
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
1みなさんはいままで中学、高校と過ごしてきて、いじめ、に関わった事はありますか?
1みなさんはいままで中学、高校と過ごしてきて、いじめ、に関わった事はありますか? …うれしいです。中学生、高校生、女子、男子、小学生、社会…すべての人に質問です。 1いじめられた事もいじめた事…
スコア:202,282点 – 解決日時:2008/08/28 03:48:57 – 回答数:9 – 閲覧数:279 – 質問した人:sowsowmonさん – お役立ち度: – 更新日時:2008/08/28 03:48:57
カテゴリ: 子育てと学校 > 小・中学校、高校
女子高校に通ってた方に質問です。
女子高校に通ってた方に質問です。 …私は今年の春から、高校生になります。女子高に通うのですが…高は女子だけだからいじめが多い」などをよく…
スコア:201,707点 – 解決日時:2009/03/23 04:26:23 – 回答数:3 – 閲覧数:133 – 質問した人:sayandharu0617さん – お役立ち度: – 更新日時:2009/03/23 04:26:23
カテゴリ: 子育てと学校 > 小・中学校、高校 > 高校
学校で女子にいじめられています。。。
学校で女子にいじめられています。。。 学校で、女子にいじめられています…ですれ違った時に女子が嫌な眼でよけ…うらやましい限りですが、高校生で女子に苛められる…
スコア:201,118点 – 解決日時:2008/11/04 17:00:28 – 回答数:2 – 閲覧数:293 – 質問した人:mozukuvoyageさん – お役立ち度: – 更新日時:2008/11/04 17:00:28
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
高校でのいじめ。高校生の時、クラスにすごく幼い男子5人組のグループがあり、その…
高校でのいじめ。高校生の時、クラスにすごく幼い男子5人組のグループがあり、その人たちが集団で… …とか絶対しない人)、いじめが始まってから付き合え…なってしまいました。高校卒業後は女子大に行ったので積極…
スコア:200,214点 – 解決日時:2009/05/12 03:14:34 – 回答数:3 – 閲覧数:231 – 質問した人:abcluchky_chanさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/05/12 03:14:34
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み > 友人
福岡女子高校について☆
福岡女子高校について☆ …ですけど、福岡女子高校卒業生の方、また在校生…光栄です☆1福岡女子のいいところを教え…か?5福岡女子は、いじめとかありますか…
スコア:198,999点 – 解決日時:2009/07/15 03:45:38 – 回答数:1 – 閲覧数:376 – 質問した人:jjmodel10さん – お役立ち度: – 更新日時:2009/07/15 03:45:38
カテゴリ: 子育てと学校 > 小・中学校、高校 > 高校 .質問する
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小・中・高校生の女子に質問です。
小・中・高校生の女子に質問です。 男子からいじめられるのと、女子からいじめられるのはどちらが嫌ですか。 女子からですね。まぁどっちも嫌だけど、女子…
スコア:198,908点 – 解決日時:2009/02/13 03:27:12 – 回答数:1 – 閲覧数:64 – 質問した人:pmuj114さん – お役立ち度: – 更新日時:2009/02/13 03:27:12
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
心の強い人間になりたい。私は高校生の女子です。内気で何事にも自信がなく、中学…
心の強い人間になりたい。私は高校生の女子です。内気で何事にも自信がなく、中学時代のいじめから人と話すのも億劫な状態です…。 …思考は私の悪いところ。今は高校三年ですが、あの時から心…は消えません…。今でこそ、いじめはなくなったものの、今も…
スコア:198,403点 – 解決日時:2009/07/16 03:18:45 – 回答数:9 – 閲覧数:210 – 質問した人:tarakokutibiru0205さん – お役立ち度: – 更新日時:2009/07/16 03:18:45
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 生き方、人生相談
…どうしたらいいかわかりません・・・。私は高校一年生の女子です。いじめとまで…
…どうしたらいいかわかりません・・・。私は高校一年生の女子です。いじめとまではいかないかもしれませんが友達だっ… …学期は学校へ行かなくても二年生に進級できるみたいなのです…た。回答お願いいたします。 いじめにあっているとのことです…
スコア:197,696点 – 解決日時:2009/02/15 16:55:22 – 回答数:6 – 閲覧数:413 – 質問した人:rei03oさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/02/15 16:55:22
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
ドMの女子高校生、マユです(〃д〃)マユはいじめられるのが大好きです(><)マユのお… ドMの女子高校生、マユです(〃д〃)マユはいじめられるのが大好きです(><)マユのおまんこをぐちゃぐちゃになる… マユの事、いじめて・・・? じゃあオマンコ思いっきり広げて、最大太さ何cmの物が入るか実験… スコア:197,438点 – 解決日時:2008/06/09 03:53:56 – 回答数:3 – 閲覧数:630 – 質問した人:pararerumayuさん – お役立ち度: – 更新日時:2008/06/09 03:53:56 カテゴリ: その他 > アダルト
みなさん、聞いてください!高校生の頃の話です・・・
みなさん、聞いてください!高校生の頃の話です・・・ …私は、男子ですが高校の頃女子にさんざんいじめられました…中学の頃の同級生の女子に前に通り…
スコア:197,216点 – 解決日時:2009/04/16 22:18:04 – 回答数:1 – 閲覧数:45 – 質問した人:newzawrdさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/04/16 22:18:04
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
性的いじめの被害て、どのよう…ですか?自分は中学生の時にズボンを脱が…のです…
性的いじめの被害て、どのよう…ですか?自分は中学生の時にズボンを脱が…のですが。男子、女子両方に質問したい… 小学生、高校生、女子高生 僕の場合・尿道の先を開いて中見られた・肛門に傘、鉛筆など挿入…
スコア:196,768点 – 解決日時:2009/09/27 09:50:46 – 回答数:2 – 閲覧数:82 – 質問した人:jack666aaaさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/09/27 09:50:46
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み > 恋愛相談
近所の女子高校生達が、同性をいじめていました。ボスの女性がベビーリンチ喰らわ…
近所の女子高校生達が、同性をいじめていました。ボスの女性がベビーリンチ喰らわすぞ!と恫喝した途端泣き叫びながら… 又、DVD等ありましたら教えてください。 凄いですね!!近頃の女子高生は、そんな事までするんですか。えっと、本題に入りますが、「ベビーリンチ…
スコア:196,765点 – 解決日時:2009/01/30 03:52:57 – 回答数:1 – 閲覧数:443 – 質問した人:n33anhryさん – お役立ち度: – 更新日時:2009/01/30 03:52:57
カテゴリ: その他 > アダルト
私は、電車にのっていると、女子高校生にいつも、いじめれますます、
私は、電車にのっていると、女子高校生にいつも、いじめれますます、 よろこんでんじゃねえよバカ
スコア:194,130点 – 解決日時:2007/12/13 03:59:26 – 回答数:2 – 閲覧数:393 – 質問した人:sugiura5667さん – お役立ち度: – 更新日時:2007/12/13 03:59:26
カテゴリ: 地域、旅行、お出かけ > 交通、地図 > 鉄道、列車、駅
いじめの心理(女子)自分の記憶をたどると、女子は中学生くらいからグループで行動…
いじめの心理(女子)自分の記憶をたどると、女子は中学生くらいからグループで行動します… …そんな理由で!?と高校生になったとき、なんて…知恵袋で「理由のない女子グループ内のいじめ」の事実を目にし…
スコア:191,888点 – 解決日時:2008/02/12 03:57:24 – 回答数:1 – 閲覧数:908 – 質問した人:rfnsx962さん – お役立ち度: – 更新日時:2008/02/12 03:57:24
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み
学校でいじめられている高校生の者です実は、学校で女子にいじめられています。い…
学校でいじめられている高校生の者です実は、学校で女子にいじめられています。いやな目で見られたり… …笑われたり・いやな顔されたり・・・友達は1人もいません。男子にも、いじめられています。でこれ、どう思いますか?? ひどいと思いませんか?? ひどくない…
スコア:190,816点 – 解決日時:2008/08/02 10:49:35 – 回答数:1 – 閲覧数:204 – 質問した人:danpunetさん – お役立ち度: – 更新日時:2008/08/02 10:49:35
カテゴリ: 生き方と恋愛、人間関係の悩み > 恋愛相談、人間関係の悩み .質問する
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タイトルのひとつひとつをクリックして詳しく見てみたけれど、どれもいまいち参考にならなかった。時刻を確認してから携帯を閉じ、ベッドに寝転んだ。目覚まし時計の針が一定のリズムで振れる。私の不安を静かに煽っているみたいで、いらいらした。
その翌日、キョーコは三時間目が終わってもまだ教室に姿を見せなかった。遅刻の日なんだろう。きっと今頃、髪でも梳いてるんじゃないかな、そんなことを思いながら、身体中の気だるさを振り払うように机に突っ伏した。空がキレイ、誰かがそう言った。気のせいかもしれない。私の心の中だけのキョーコの声かもしれない。
昨日だったか一昨日だったか、眠りにつく前、自分の将来について漠然と考えてみた。本当に漠然と。たとえば「もし私が十年後日本を代表する女優になってたら」なんて突拍子もないものまで。最初のうちはそんな具合に、大きな途方もない妄想ばかりが頭を支配してばかりだったから、これじゃダメだってことになった。だからひとまず、私の身近なことから考えてみようとした。たとえば、私の好きなものだとか。
私の好きなもの。それを思いついたまま箇条書きみたく心の中で列挙してみようとしたけれど、ほとんど何も出てこなかったことには自分でもびっくりして、同時に呆れた。
しょうがないじゃん。好きなものなんて言ったって、自分の趣味も持っていないし、何か得意なものだって特にない。恋人がいるわけじゃないし、ジャニーズのおっかけをしてるわけでもない。そうやって順繰りに考えていくと、段々と、自分自身の存在の空虚さがわかってきた。――要するに私はからっぽなのだ、と。つけっぱなしにしていたテレビは深夜のお笑い番組を映していた。とても小さな音量で、司会者も解答者も何を言っているのか聞き取れない。自分の頭をかきむしって泣いてしまいたかった。本当に頭を両手でかきむしってみた。涙までは出なかった。
これから先、私はこのからっぽを克服出来るだろうか? 出来ない、と思った。キョーコはいつも苦しい思いをしているし、私だって学校にいるのはとても息苦しい。小さな問題や用事はいつでも身の回りに転がっている。それらの処理ばかりに追われて今まで生きてきた。そんな中で、今更自分の好きなことをしたり、探したりするだなんて……
そのうち、自分の考えが言い訳じみてきていることに気がついて、またしても頭をかきむしりたくなった。世界の人口の五分の一の人は飢餓や戦争で苦しんでるって、こないだテレビで知ったばっかりなのに、なんだよ私、こんなことくらいでうじうじして、情けない。
もう寝よう、と思った。
笑い声が教室に響いた。何かぞっとするような声だったのでおもわず顔を上げると、またあいつらだった。キョーコの机に太いペンでいたずら書きをしていた。そのグループと私の目が合った。私が立ち上がるとそいつらは、自分達がいつもたむろしている席にそそくさと引き返していった。
廊下の洗面所にあるぞうきんを絞って、キョーコの机を拭いた。二度と見たくないような汚い言葉ばかり書かれていた。こすっても簡単には落ちなかった。色んな人の視線を感じた。だけど、手を止めることは出来なかった。
私の好きなもの、昨日か一昨日の夜に考えていた時、一瞬だけ頭の隅を通り過ぎた映像があった。それはキョーコが携帯のカメラで撮影した空の写真だった。
キョーコが教室に入ってくるのがわかった。みんなが一斉に教室の入り口を向いて、ざわついたからだ。
振り返るともうキョーコは目の前に立っていた。また上履きを履いてない。何してるの、と私に問い掛けた。
「気にしないでね、もうすぐキレイになるから」
私がそう言うとキョーコは、心の底から出たみたいなため息をついた。
「つかさ、そういうことじゃないの」呆れて頭を抱えたように言う。「アナタは私を助けてくれてそれで満足だろうけど」
「え」
「聖母様にでもなったつもり?」
「え?」
そう言って首をかしげることしか、出来なかった。
キョーコは私の横を通り抜け、まっすぐに中西彩香に向かっていった。そばまで近づくと、キョーコが椅子に座っている中西彩香を見下ろすような格好になった。彼女はキョーコを無視して、座ったまま俯きがちに携帯をいじりつづけた。キョーコの手がふわりと宙に上がったのが見えた。そのまま中西彩香の頬に平手が振り下ろされそうになった時、キョーコの横顔に何かが勢い良くぶつかった。ぱあん、という音がした。キョーコの上履きだった。「ゴミ箱にあったから拾っといたよー」と安藤さんは言った。ぽつぽつと笑いが起きた。私はまた立ち尽くしていた。
キョーコの目からは涙が滲んでいた。私はどうしようもなくなって彼女に駆け寄った。彼女の目の前まで来て、その名前を呼んだ。うるさい、という小さな声が返ってきた。
キョーコにそう言われたのだ。
彼女の細い肩は嗚咽のたびに上下していた。
「また泣いたぁ」と中西彩香は言った。「いじめがいはあるけどさ、マジめんどくさいし、こんな空気になっちゃうと」と仲間に語りかけて笑い合っていた。
5
公文君は相変わらずゲーム熱に浮かされているみたいだ。それをただ黙って見てるだけの私もちょっとおかしいかもしれないけど。
ゲームオーバーになって画面が切り替わり、タイトルが表示された。『鉄拳6』。公文君は私に向き直る。
「須崎は今日も寒いね」
公文君は私に語り掛ける。
「うん。……学校じゃ、もうマフラーとかしてる人いるし」
「へぇー、さすが都会」
「都会って」
こんな田舎の県でも、市内というだけで都会扱い。やはり辺境の町とは様々な面で差が出てくるのだろうか。何だか変な感じがして、私は笑ってしまう。
キョーコはどう、生きてる? 公文君はわざと無邪気を装って私に訊ねた。クラス内でいじめられたり無視されたりしていることは、既にキョーコが自分から話していた。私はまだ明かしていなかった話をした。キョーコが最近、四日つづけて学校を休んでいることだった。
「何? 新型インフルエンザ?」
「違うの」私はそこで言葉を切ってしまってから「たぶん」と付け足した。
「何でわかるわけ?」
「……だって」
長い話が必要なのかもしれない。きっと公文君だって心配してくれてるんだろう。
私の知る限り、キョーコは学校を休まない人だった。だからその日もいつもと同じ「一週間に一度の遅刻」の日だと思っていた。だけど結局、キョーコは終学活になっても教室にやって来ることはなかった。中西も、不登校確定じゃね? とか言いたい放題言っていた。なぜだか、そんな風に言われても悔しくなかった。次の日もその次の日も彼女は来なかった。宇佐美先生に「何か聞いてる?」と探られたりもしたけれど、何も聞いてないので答えようがなかった。
そんなことが三日つづいた日の夜、私としては意を決したつもりで彼女に電話をした。二回のコールですぐに出てくれた。
「はい」
キョーコの声だ。
「キョーコ?」
「うん」
「良かった、出てくれて」
受話器から笑い声が漏れた。
「中西さん達何か言ってた? アタシのこと」
「ん……まぁ、色々、うん」
「何? 何?……って、おーい、黙るなよぉ! あはは」
「ねぇ、キョーコ」
「うん?」
「元気?」
「うん」
「学校、来たくないの?」
「うん」
「……そっか」
「逃げたんだと思ってる?」
「ううん、そんなこと思ってないよ」
「ふふ……ね、つかさ」
「はい」
「アタシ今ね、本気で死にたいって思ってる。……ウソだと思う? 思うでしょ。アタシもね、何ていうか、自分で言っててわけわかんないもん」
私は何も言えずに黙ってしまった。車が外の通りを走る音しか聞こえなかった。二人とも黙り合ってしまった。しばらくしてから、ようやく話し始めたのはキョーコだった。
「中西さん、消しゴムちぎって投げてくるでしょ? あれがたぶん一番こたえるのよ、アタシの中で。すっごくね、屈辱感に満ちてくるの、あんなバカに、アタシがバカにされてる、見下されてるって思った時。だけどアタシ、何にも拒否しないの、あいつらを身体が怖がってて、やめてって一言も言えないの。なんていうか、アタシ、結局ただのでくの坊だから」
「そんなことない」
「あるのっ」
「そんなことないってば」
「……つかさ、ごめんね」
「ううん」
「あのね、こんなアタシでも構ってくれる人なんて、つかさしかいないんだよ? だから余計、申し訳なくって、今の自分が。あのね、正直言って、今はつかさにちゃんと目を合わせられる自信もないの」
「うん」
「意味わかんないでしょ」
「ううん。大丈夫だよ、目だっていつもちゃんと合わせてくれてたじゃん」
「だから今はその自信がないの」
キョーコの語気がわずかに強まった。
「きっと出来るよ」
なだめるように言う。
「何? きっとって何?」
「きっとは……きっと、だよ」
「アタシその言葉が一番嫌い。単なる希望じゃん、アタシには希望も何にもないんだよ」
「そんな、アタシ、ずっとキョーコのそばにいるから、ね?」
「だから? 学校行こうって?…………残念だけど、アナタ一人がいるだけでいじめがなくなるわけじゃないし、もしいじめがなくなってももう、あの息苦しさはダメなの。アタシ、もう逃げることしか考えられない、ホント、人間失格かも」
「そんなことない」
「あはは……つかさの話ってホント、ワンパターン。そんなことない・大丈夫、って、自分はまるで何の悩みも持ってないみたいにさ」
「そんな、」ことない、と言いそうになって、反射的に口をつぐんだ。
「ほらね、何なのそれ。どーせ、アタシに付き合うのもボランティアのひとつだと思ってんでしょ」
「思ってない」
「もういいよ、つかさの言葉なんてどうせアテになんないんだから」
最後にそう言い残して、キョーコは電話を切った。
そこまでの出来事を、なるべく残さずあまさず公文君に打ち明けた。
「アタシ、自分に何が出来るのか、全然わかんなくなっちゃった」
私のその言い方は、公文君にすがっているように聞こえたかもしれない。彼は眉をひそめて困ったように俯いた。
「まだわかんない?」
「何よその言い方。何か言いたいことあるの」
「違うよ、怒んなよ」
早口になって弁解するように言う。彼の目がおもしろいほどちらつくのを私は見逃さないでいた。
「怒るよ、こっちは必死なんだから」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃあ、キョーコが早く元のキョーコに戻って欲しいからよ」
公文君はまた眉をひそめた。
スーパーを出てすぐのコンビニで公文君は私の分の肉まんも買ってくれた。お墓のそばの駐車場に座り込んで食べた。湯気がそれの割れたとこから噴き出て、夜の空気を濁した。「オレさ、ガムとかスナック菓子って嫌いなのね。あのさ、ヒマさえあればフリスク食ってる奴とかいるじゃん、あれ、何なのかな」
「知らないよ」
「オレの話、聞いてくれないの?」
「聞いてるよぉ」
私は空いてる方の片手で公文君をぱしんとはたいた。はは、と乾いた笑いを漏らす彼。それを見てまたこらえきれなくなった私は、また何度も彼の身体をたたいてしまう。イライラしたわけじゃないのに、そうしないではいられない。
ようやくその公文君をたたきたい衝動が治まっておとなしく肉まんを食べ始めると、公文君はふいに、私の頭に手を乗せてきた。私は何も言わなかった。しばらくするとその手が離れた。
「つかささんは、生きてるって思う? 最近」
「ん、アタシ?」
「そうそう」
「うーん……そんなこと思う余裕が、ない」
「オレ、今まさに思ってる最中なんですけど」
「何で?」
「あんまりこれがうまいから。なんか、しあわせーって思う」
「はは、単純」
「うん、まぁ、そういうことになるよね」
6
キョーコがいないと、私はクラスの誰ともほとんど口を利かない、という当たり前の事実にも向き合わなくちゃならなかった。朝、「おはよう」と言い合えるくらいの人は数人いたけれど、それが一日の会話のほとんどすべてだったりするのには自分でも呆れた。
最近の体育は持久走をしている。グラウンドを八周、約二四〇〇メートル。かなりしんどくて、一生懸命走ってるのに大体いつも下から三番目ぐらいでゴールする。グラウンドを走っている最中、余裕もないのにふと山を眺めたりもする。黄金色の薄い衣が山に降りてきたような、暖かな色付きだった。その中でも目立つのは葉が赤く染まった場所。ぜーぜー息を切らしながら目に焼き付けた。真っ青な空の下にあったことだけをおぼえていた。秋晴れっていうのかな? ひとつの雲もない日だった。
「鶴巻さん、二十五秒も縮まってるよ。すごいじゃない」
終わったあと、いつもタイムを教えてくれるのが知香ちゃんだった(クラスの女子を前後半の二組にわけて、走っていない組が走っている組の人達のタイムをそれぞれ記録していく)。「チカ」とみんなから言われているから私も名前で呼んでいた。おっとりした子で、クラスの中心からは明らかに外れているのに、どこか他の人達から一目置かれるようなある種の威厳を持っている人だった。私は彼女ともぽつぽつと会話をするようになった。体育の授業の時や、掃除の時(班が一緒だった)。たまに「葉山さんは元気でいる?」という風に探りを掛けてくる時があって、私はそのたびにまごついて言葉を濁した。
知香ちゃんは、お世辞にも容姿の整った子だとは言えなかった。一緒にいる時、知らず知らずのうちに心の片隅でキョーコのそれと比較しては、自分の浅はかさをひどく嫌悪した。
中西さん達はキョーコのことなんてもう記憶のどこにもないかのように振舞っていた。彼女がキョーコについて何も言わなくなると、まるでクラスからキョーコの存在が残らず消えたような感触をおぼえた。ひょっとして、今この場でキョーコのことを考えているのは私一人だけなのかもしれない、そう思った。
持久走のタイムは段々縮まっていき、下から三番目だった定位置がいつのまにか下から六番目になっていた。ちなみに知香ちゃんはクラスの女子のちょうど真ん中くらいの速さだった。走り終えたあとも平然として息を整えているので、本当はもっと早く走れるんじゃないかと思った。
だから私が「今度は本気で走ってよ」とふざけ半分に言ったら、「わかった、金曜日はそうするね」とけろりと言って、本当にもっと速く走った。タイムだって一分半近く縮まっていた。びっくりしたのと呆れたのがちょうど半々くらいの変な気持ちをおぼえた。
昼休みは机に伏せて寝たふりをするのが習慣になった。私も知香ちゃんもお互いに、ある一定の線引き以上に踏み込もうとしなかった。五月あたりの私とキョーコの付き合い方にとても良く似ていた。
知香ちゃんが冗談みたいなスピードでグラウンドを走ったその日の夕方、私と公文君は地元の公園にいた。古びた民家の片隅にあって、なぜかいつも鎖で入り口をふさがれていて、本当に遊んでいいのかも考えてみればあやしい。ブランコとシーソーとゴミの不法投棄を禁止する看板と、動物の背中に腰掛けてギコギコゆれるやつがあって、どの遊具ももれなく錆びていた。公園の向かい側に見える一軒家には公文君のおばあちゃんが一人で住んでいるのだそうだ。だけど、行きたくないんだ、とも。
「こっから手ぇ振っても絶対気付かないよ、一日中テレビ見て寝てるだけだから」
公文君は淡々と喋った。
「最後にあの家に行ったのはいつ?」
「ん……えっとね、たぶんね、一年前くらいかな。その時確信した。もうオレ絶対この家来ないって」
「何で?」
「何でだろうな、ポットン便所だったからかな。わかんないけど、何か家に染み付いた匂いが、不潔に思えたのかな。いや、そんなことじゃなくて、何かもう全部諦めきってるみたいな雰囲気をおばあちゃんとその家から感じてさぁ、まあそりゃお年寄りだから当たり前だけどさ、でも、そこでもう、オレはこの家に来る必要ねぇなって思って」
「ダメだよぉ、孝行しなきゃ」
「コウコウ?」
「孝行! 親孝行の孝行よ、バカ」
ダウンコートを着た公文君の背中をたたくと、ぱしん、という乾いたすれた音がした。
「キョーコ様とさ、最近話した?」
そう訊ねられて、私は泣く泣く首を横に振った。公文君は、ふうん、と言ったきり、また公園内の狭い敷地を歩き回り始めた。私もあとについて歩いた。公文君はおかしそうに、自分の背中に張り付いた私を眺めていた。手がかすかに痛みをおぼえるほど、寒さが進んだ日だった。冬はもうすぐそこに迫っているように思えた。園内を囲う木立はほとんどが枯れていて、葉も残っていなかった。
ブランコを漕いでみた。ギシギシと鈍い音が上から聞こえていて、今にもバラバラに壊れそうだったから、危なくなった時ちゃんと助けてくれるよう公文君に言いつけてから乗った。公文君はブランコの横でタバコを吸いながら見守ってくれた。彼のおばあちゃんの家がちょうど目の先にあって、そのぼろっちい映像が、ブランコのゆれと同時にゆっくり上下した。
空はそのあとからついてきた。夕焼けもほどけたあと、ちぎれた雲がひとつふたつ、灰色の空をはかなげに漂っていた。段々、空しか目に映らなくなっていった。公文君が何か小さな声で喋っていた。そんなに漕ぐなよ危ないだろ、そんな風に聞こえた気もする。
空は私の心そのものみたいだった。雲にだって逃げられるくらいにからっぽで、何も持ってないのに、自分以外の何者も受け入れる気がない。
ブランコを降りると、何よりも早く公文君と目が合った。何も言わず、ただ横を通り過ぎて、そのままふらりとブランコの柵に腰掛けた。もし、出来ることなら。公文君に抱きついてしまうことが出来たなら。そんな私だったら、もっと楽に生きれたのかもしれない。さみしいよーって、手近にいる人にすぐ泣き付いて話を聞いてもらう、そんな風に。
すぐ隣に公文君が腰掛けてきた。身体が小さく震えるのがわかった。そのまま何も言わずにいたら、沈黙が嫌になったのか、それとも柵に腰を乗せているのが窮屈だったのか、たぶん後者だろうけど、公文君はまたすっと立ち上がった。
「マジメな話していいっすか」
「へ?」
「だから、マジメな話」
「いいっすよ?」と私は目を丸くしながら言った。
互いの目が合ったあと、公文君は再び柵に腰掛けた。この優柔不断め。
「あのね、あくまでオレの考えなんだけどさ」
「うん」
「何てーか、えっとね、つまりオレの考えではね」
「おんなじこと二回言うな」
「あ、ごめんなさい。……ってか、それだよ! オレが言いたいことは」
「はい?」
「オレに接するみたいにさ、キョーコと付き合っていけばいいんじゃね? みたいな」
「……公文君に接する時みたいに」
「そう」
「たたけってこと?」
私は自分の右手をひらひらと振ってみる。
「違うよ。あのね、つかささんはアレだから、シャイだからそうなるんだろうけどさ、でも、キョーコが今こういう時だから。一回くらい、ガツンとぶつかったほうがいいんじゃないすかねー……と、オレは、思う」
「ガツンと」
「おう」
「ヤダ」
私がそう言うと、彼はあからさまに腰が砕けたような表情をした。
「ヤダ、ですか」
「うん、ていうか、そんなつもりで言ったんじゃなくてね……あの、もっと、キョーコとは繊細に付き合っていきたいっていうか……自分が甘いのはよくわかってるけど」
「うん。てかオレの言い方も悪かったね、なんか、言い方的に、出来の悪いドラマみたいだった、金八先生みたいな」
「うん」
「つかささんのやり方も、あるしね」
「うん」
「でもこれだけは、言っときたいんだけど」
「何?」
「キョーコは、待ってると思うんだ。つかささんが、『私はアナタが必要なのっ!』って、言ってくれることを」
立ち上がった公文君は、タバコを取り出し手早く火をつけた。もうあたりは薄暗くなっていた。
「オレ来週からバイトやるから、こんな風に毎日は会えなくなるよ」
ついでみたいに言った。その言葉に、少なからず動揺している自分がいた。
「何でそんな言い方なのよ、アタシが公文君に会いたがってるみたいじゃん」
笑いながらそう返すと、
「だよねぇ」
と、引きつった笑いを見せた。どこまでもやわらかくて、手ごたえのない人だと思う。
背中越しのブランコが風にゆれて、ギシィッ、そんな音を立てた。
「鶴巻さん」
昼休みが始まってすぐ、知香ちゃんに呼び止められた。
「みんなと、お昼一緒に食べない?」
誘ってきてくれたのだ。
そっと頷くと、知香ちゃんは私を、三条さん、金平さん、園田さんのいる体育館の裏まで連れていった。着くと、みんなは一斉に私を見た。三条さんだけが私に笑い掛けていた。
みんなと同じようにコンクリートの段差に――そして知香ちゃんの隣に――腰掛けて、お弁当を広げた。四人のまっすぐな視線を感じた。人から注目されるのも久しぶりだったような。
しばらく、誰も話しもしないままお弁当を食べていた。
「ね」
三条さんが声を掛けてきた。
「ん?」
「アタシさ、鶴巻の声ってあんま聞いたことないのね」
知香ちゃん、金平さん、園田さんの三人が、ふふふ、と穏やかな笑いをもらした。
「アタシも、聞きたい」
そう言ったのは金平さんだ。前髪が昨日より短くなってる。自分で切ったのかな。
「血液型は?」三条さんが言う。
「ん、O型」
あっ、私がそう思うとほぼ同時に、みんなも私だけを見ていた。
「喋れるじゃんっ」
三条さんが私の肩をぽんとはたいた。
「鶴巻さんの声聞いてるとね、すごく癒されるよ。ねぇ、アタシの名前も呼んでよ」
卵焼きをごくんと飲み込んでから私は、
「知香ちゃん」
と言った。おお~、というかすかな輪唱が聞こえた。
「ほらね、何か癒しの成分出てるよ、きっと。あの、あれよ、あれ……エンドル、フィン?」
それそれ、と三条さんが頷く。
「じゃ、アタシの名前。知ってる?」
「金平さん」
初めてその名を呼んだ。名前を呼ばれた当人は、何ともなさそうに微笑していた。
「オモチャみたい、アタシ」
そう言うと、みんながまたくすくすと笑った。
「そーだよ、変な風に鶴巻さんを扱っちゃダメ」
知香ちゃんはそんな風にみんなを諭したあと、ちらりと私の方を見やった。
私が目を合わせると、彼女はおもちゃのようにかたりと微笑みをくれた。けれど箸をおかずに伸ばすと、もう二人とも表情もなくなっていた。つかんだ物を私は口に運んだ。
「なんかさー、鶴巻ってさー、いつも葉山恭子と一緒にいるイメージあるよね」
話も尽きかけ、みんなが黙々とお弁当を食べ進めていた頃、ふいに三条さんが言った。
私は何も言葉を返せなかった。それっきり、会話は寸断された。
みんながお弁当を食べ終わったあと、それまで一言も話さなかった園田さんがふいに私の方を向いて口を開いた。
「ここにいる人みんな、ウソをつけない人達だから」
他の人達は俯いたままなのに、一人園田さんだけが私の目をじっと見つめていた。
夢を見た。
久しぶりにキョーコの姿をこの目で見た夢だった。
私とキョーコはどこかの遠いリゾート地みたいな島にいた。その海岸を歩き回ったり、出店で売ってるアイスを買ったりしてゆったりと過ごしていた。桂浜なんて目じゃないくらいの、とんでもなく広い海が目の先に広がっていた。それから私は、キョーコに促されるまま岸壁の尖端に歩いていった。そこからだと海の青がよりはっきりと感じられた。ブルーハワイのかき氷みたいな澄みきった青だった。私達はお互いに一言も会話を交わさなかった。
キョーコがふいに、岸壁の下にある海を指差した。私もその海を眺める。波はひとつもなくて音さえしなかった。とても高い場所に来ているような気がした。カモメが一羽、くるりと円を描いて回りながら沖の方を飛んでいた。
私が振り返った瞬間、キョーコはそこから飛び降りた。そして、海の底へ消えてしまった。私は腰が抜けてしまい、そのあと堰を切ったようにさめざめと泣いた。
目が覚めた。
その日も彼女達と一緒に体育館の裏でお弁当を食べた。
「鶴巻って家遠いよね? たしか」
「うん。須崎だから」
ふーん、と三条さんは相槌を打った。そのあと、アタシとチカが同中なの、と。
「どこ?」
「南国市」
「ああ……」
「須崎よりは田舎じゃないよ」
知香ちゃんはそう言って笑い、
「で、金平さんが鏡、園田さんが大津」
とつづけた。二人とも箸を止めなかった。
「須崎って何があんの?」
「何がある……?」
「ここにジャスコがあるみたいにさ」
「うーん、何もない、かも」
「何も?」
「うん。山だってこっちの方が多いし」
三条さんはけらけらと笑う。日影が彼女の顔を覆っている。
バタバタという足音と、笑い声が裏から響いた。いつも決まってその時刻に、体育館では男子がバスケットボールをして遊び始める。
バム、バム、バム、硬いボールが跳ねる。
「うるさいなぁ」
私がつぶやくと、三人はまたこないだの通り、くすくすと笑い合ってくれた。
「結構言うねぇ、鶴巻」
よく話しかけてくれるのはいつも三条さんだ。
「あ、さっきの話のつづきだけど」
知香ちゃんがふいに口を開いた。
「何? 何のつづき?」金平さんが言う。
「あの、須崎に何があるかっていう……」
「へ? それもう終わったんじゃない?」
金平さんがおかしそうに言った。「そーだよ、チカどんだけ乗り遅れてんだよ」と三条さん。園田さんも笑っている。
「まあいいじゃん、聞いてよ」
私の方を向いたので、確認し合うように頷いた。
「あのね鶴巻さん、南国市にはね、空港があるの」
「空港……。って、あの空港?」
「そう」
一瞬だけぽっかりと間が空いた。寒風が来て、コンクリの段差に横一列で折り合っていた私達の素足を撫でるように通り過ぎた。
「さむっ、てかさ、空港が南国にあることとか誰でも知ってるし!」
私も三条さんの言う通りだと思って、知香ちゃんの呑気な発言につい吹き出してしまった。知香ちゃんは顔をほんのりと赤くしていた。興味深い人だな、とか思い、おもわずその横顔をまじまじと見つめてしまう。
「鶴巻は飛行機に乗ったことあんの?」
「一回だけ、中学の修学旅行の帰り」
そのあと、各々の中学の修学旅行の話などしていたらあっというまに時間も過ぎて予鈴が鳴ってしまった。知香ちゃんと三条さんは沖縄、金平さんは京都で文化遺産巡り、園田さんは大阪と長野、スキーもしたそうだ。私は名古屋と東京ディズニーランド。みんなそれぞれお互いに、そっちの方がマシだったな、なんて言い合っていた。
須崎まで自転車を漕ぐ帰り道、山の中を切り開いて作られた侘しい道を通りながらその昼休みを思い出したりしたけれど、一番良くおぼえていたのは、知香ちゃんの「私の町には空港がある」というぶっきらぼうな言葉だった。
時折、車がその細い二車線の道を通る。なぜか軽トラが多い。坂の勾配は徐々にきつくなっていく。毎日通っている道でも、やっぱりしんどいのは変わらない。道の両側には山の側面が、見上げてもまだ空さえ見えないくらい高く盛り上がっている。もう少し行くとぼろくさいガソリンスタンドが見える。道端に、ぽつんと存在している。
7
午前十一時頃、家を出た。キョーコのいる高知市へと自転車を走らせた。別に焦ってるわけじゃない、ゆっくり行こう。どうせ学校も休んだんだし。またいつもの山道を通って。
四十分掛けて市内に着いた。やっぱり須崎の町とは違う。道がきれいに整備されているし、自転車の走る地面はでこぼこも少なく、陸上競技場みたいな鮮やかな赤茶色と緑色に配色されている。あたりを見渡してみたが学生らしき人影はなかった。当たり前かぁ、ひとまず安堵してみる。それから、特別長い信号待ちの時にキョーコにメールを打った。文字を打つために手袋を外すと外気に手がふれて、そのあまりの寒さに少し驚いた。
約束の場所にキョーコは現れた。私がそこに着いてから十分もたっていないと思う。自転車に乗ってきた彼女は、私に向けてとてもナチュラルに手を振った。
「おはよー、つかさ」
「おはよ」
わずかな駐輪スペースに自転車を止めた。ギッ、という古びた音がブレーキのあとにした。彼女の自転車はチェーンが完全に錆びていた。彼女は薄い黄緑色のマフラーを巻いていた。
いつかキョーコと一緒に訪れた小さなスーパーマーケット。駐車場に車は少なく、人影はまばらというよりほとんど誰もいない。平日の午前中なんてそんなものだろう。
「元気だった?」
わざとだろうか、キョーコは悪びれもせずにそう訊ねる。
「そんなでもなかったよ」私がそう言うと、けたけたと笑った。彼女だけが身につけている微笑みの形だった。
「ごめんね、いつも好き勝手させてもらって」
「うん」
「大丈夫、アタシ明日からでも学校行くから」
「ホントに?」
「うん。もうすぐテストだし、補走も三回? 三回かな」
「四回だよ」
「そうそう、四回も貯まってるし。もうそろそろ行かなきゃヤバイからね」
「そっか……」
「ん? どーかした?」
「あのね、キョーコ」
「はいはい、どうしました」
キョーコは何かを察したのか、かしこまったように身を縮めた。
「あのね、怒ってもいいから聞いて」
「うん、大丈夫だよ? 言ってみなって」
「あの、アタシ、前々からそうだったけど、何ていうかね、……キョーコのことが好きなのね」
「うん」
「キョーコがどう思ってるのかはわかんないけど、アタシは、キョーコと会えなくて寂しかったし、ずっとね、また話をしたり、一緒に本を読んだりしたいって思ってた」
「うん」
「あの……だから……」
「うん」
「……うん、それだけ」
「ホントに、それだけ」
「うん」
恥ずかしくなったのか、それからの私はたぶんずっと俯いたままだった。キョーコはそんな私の顔を下から覗き込んで、にこりと笑い掛けた。愛の告白? あはは、つかさらしいね、って。
「でも、そんなにつかさらしいことをつかさに言われたの、初めてだったかも。成長したね、アナタも」
意味がわからなくて、でもキョーコらしい言葉だと思った。絶妙に散らかった語彙と、今にもすり潰されて消えてしまいそうな声。ああ、キョーコだ、と思う。
「え? え? ウソ、泣かないでよぉ。アタシ何か言った?」
必死に涙をこらえながら、私は大きく首を振った。
突然のことに当惑しているキョーコに縋り付くように、身体ごと彼女に預けた。自分の感情がこんなにもあやふやに動くものだったなんて、こんなにも鼓動しているなんて。私はその時、初めて知った。
自転車で街を四十分は走った。南国市は私達もそんなに訪れたことのない土地だけど、これほど遠いとは思ってもみなかった。途中、高須本町のジョイフルで昼食を取った。二人とも黙って食事に専念した。ただただ二人とも疲れていたんだと思う。
そんなこんなで高知空港に無事辿り着いたのは午後一時。自転車の置き場所がわからずにうろうろするのが、まず初めに私達のしたことだった。ようやく駐輪場を見つけて、自転車を止め、入り口の自動ドアをくぐった。
予想通り中は閑散としていた。でもその空気がやけに私の胸になじんだ。
「何、しよっか」
私が言うと、キョーコがはしゃぐように、
「あ、石川遼がいる!」
と声を上げた。本当にいた。等身大のパネルだけど。ピカピカの機長服を着て、フキダシでキャンペーンか何かのアナウンスをしていた。
ANAとJALの受付あたりを見回りながら、時々すれ違う人々の姿を眺め合った。なんてことのない遊びだった。色んな人がいて、――小金持ち風のおじさん、スーツを着たやり手の商社マンっぽい男の人、小さな子供を二人連れた二十代後半くらいに見える女の人、原色の服を着た若いカップル――でも、誰もがみんな私以上に、私達以上に、ぴったりとこの世界に収まって自分自身の役割を果たしているように見えた。羨ましかったわけじゃない。
次に、書店やお土産屋さんを覗いてみた。キョーコは書店で文庫本を買った。村上龍という人が書いた小説だった。私はその作家を知らなくて、おかげでまたいつもの通りキョーコの熱い解説を聞かされた。私は聞いてるふりでも、相槌だけは熱心に打っていた。彼女はそれでも十分に満足してくれる。
レストランもいくつかあった。多少値段は高いけれど、どう見てもジョイフルのメニューよりおいしそうだったから少し後悔した。キョーコも店頭のガラスケースに並べられたサンプルをもの欲しげに眺めていた。お互いの目が合い、そしてそのうちに自然と笑いがこみ上げてきた。
発着、到着を知らせるアナウンスは断続的につづいていた。日本語の次に英語。規則正しく、どんな時も波打たない。
「学校休んできたんでしょ?」
「うん」あんたもそうじゃない、と思いつつ。
「先生に連絡した?」
「うん。自分で。八時ちょっと前に。すぐ出てくれて、そんで、微熱があるしインフルエンザだったらいけないので今日は休みますって」
「ちゃんと言えた?」
「うん、けど、声は震えてたかも」
「かもじゃないよ。アタシ思うけど、つかさの声は絶対震えてたと思う」
二階の発着ゲート近くを歩きながらそんな話をしていた。それからまばらに設置されてあるソファに座った。身体中の緊張が抜けて脚全体が楽になるのがわかった。ずっと歩き通しだったから。
そうして私達は、放っておいてもそこで動く無数の風景達を眺めつづけた。
高知―伊丹 ANA 1696 Q4A 14:20 15:05
高知―東京 JAL 1488 738 14:25 15:35
高知―福岡 JAL 3586 CRJ 14:55 15:50
高知―伊丹 ANA 1608 Q4A 16:15 17:00
高知―東京 ANA 568 76P 17:10 18:25
高知―名古屋 JAL 4376 CRJ 19:15 20:10
電光掲示板に映された時刻表。一定時間がたつと、「Kochi―Itami」という風にすべての表示が英語になった。
小さな女の子がぺたぺたと靴音を鳴らしながら通路を一人歩き回っていた。迷子にでもなったんだろうか。
「展望ブリッジ行こうよ」
「うん、まあ、ちょっとだけ休憩してからね」
はやる私をやんわり抑えるキョーコ。
前を行ったり来たりしていた女の子がふいにこちらを振り向いた。私が目を逸らそうとする前に、女の子の方がそっぽを向いてまた歩き出した。そのあと女の子は、私だって憧れを抱くような高く透き通った声で、
Mammy,where are you?(まぁみー うぇー あー ゆぅー)
よく見ると、独特の高貴そうな顔立ちをしていた。髪は黒いのに目は青い。
「へー、外国人?」キョーコがつぶやく。
「そうかもね。もしくはハーフとか」
キョーコはふらりと立ち上がって、女の子に歩み寄った。女の子は突然自分の下に近付いてきたお姉さん二人を見て、怖くなったのか固まってしまったようだった。
えーと、とキョーコは首をかしげた。「お母さんはいないの?」
女の子は表情も変えず、何も答えない。英語英語、と私はキョーコをはやしたてる。
「そんなこと言ってもね」
「早く、キョーコ」
「わかったよぉ。えっと、あの……マミーは、いないの? じゃないや、それはもうわかってるのか。えーとね、あの、ユーアー、じゃない」
「キョーコ、何一人でぶつぶつ言ってるの」
こらえきれずに笑ってしまう私。
私は心を落ち着けてから、女の子と視線を合わせるためにしゃがんで、
おなまえは? と。
きっと簡単なことだ。大好きな人に接するように、相手の目をあまさず見てしまえばいいのだ。
女の子は自分の名前を教えてくれた。その声と釣り合うくらい、きれいな名前だった。
私は女の子と手をつないで、ANAの受付まで歩いた。歩調を合わせるのが結構大変で、それでいて楽しかった。まるで自分が母親になった気でいたのかもしれない。キョーコは息を潜めたまま私達のうしろをついてきた。おかしくてまた笑いそうになった。でも申し訳なくて笑う気持ちにはなれないから、苦し紛れに手で口元を覆った。女の子はそんな私を不思議そうに見上げていた。まん丸いふたつの瞳で。
「アタシね、引きこもってるあいだ、ずっと、本読んで、いいとも見て、それからぼーっとして、寝て、の繰り返しだったような気がするの」
「そう」
「ぼーっとして、っていうか、考えごと? かなぁ。何か、色々とあるじゃない? 身の回りの悲しいこととか、絶望的なこと」
私はわずかに首をかしげた。わかってるくせに、とキョーコは言い、つづけた。
「すっごいね、自分も周りも嫌悪しちゃうの。どうしようもないくらいにスケールちっちゃい自分と、もっとつまらないそこらへんの景色。でっかい声で叫びたくなって、こらえて。こんなところがアタシのリアルだなんて考えたくない、って本気で思ったりして」
「うん」
「ま、そんなカンジ。大雑把に言えば」
「……展望ブリッジ」
「ああ、そーね」
「行こうか」
「うんっ」
風の音だか飛行機の離陸する音だか、初めのうちははっきりとしなかった。ごうごうと空気を巻き上げて、背中の向こうへ飛び去っていく、音。
時間帯の関係か、屋上の展望ブリッジには思ったよりも人が集まっていた。みんな柵に近付いて、デジカメや携帯で写真を撮ったり、ベンチに腰掛けたままで眺めていたりする。
「これ見て」
キョーコの声も屋外ではくぐもっていて聞こえにくい。私は、え、と返事する。
「これ」
そう言って人差し指で示すキョーコ。
飛行機のタイヤが一列にずらりと並べて展示されてあった。みんなが飛行機を見ている柵のちょうど向かい側にあった。
柵の少し手前にある木製の白いベンチに二人で座って、JALの飛行機が空へ飛び立つのを見届けた。滑走路をとんでもない速さで走ったかと思うと、すんなり浮いて、そしてあっというまに小さくなった。風の音さえ聞く余裕もなかった。その様子を眺めていた人々は、飛行機が見えなくなると、やがてぱらぱらと展望デッキから離れ始めた。
この空港だって、私達にとっては遥かな遠い場所のはずなのに。
空に昇って滲んで消えた白い飛行機。もっと遠いところへ行ってしまった。
「つかさ」
「ん?」
「三万円あれば、ここから東京にも行けるし、大阪にも行ける」
「そうだね」
キョーコと一緒に見た外の景色は、いつでも曇り空だったような気がする。
分厚い雲に覆われた太陽の光、奥に潜まったままで、それでもうっすらと照らしていた。今頃飛行機は雲の上だろうか、どんな景色が見えるだろうか。想像すら出来ない。私はまだ何にも知らない。自分の住んでいる町も、それに、自分が誰に愛されて、憎まれているのかさえ。今はまだそれを言い訳にして、苦もなく日々を過ごしていくことだってできるかもしれない。だけど、いつのまにかそうやって何にも知らないままで大人になってしまいそうで、それがとても怖かった。今までずっと、そんな感情を、必死で押し殺したり隠したりしてきた。
キョーコは携帯を空に向けていた。私達の町から十数キロ離れた場所にいても彼女の習性は変わらない。なんだか妙な感じがした。
カシャリ、シャッター音のあと、キョーコは写りに不満でもあったのか、ぶつくさと独り言をつぶやいている。
「キョーコ」
「なーに?」
キョーコはこっちに振り向く。小さな靴が地面にすれて音を立てた。
私はぐっとつばを飲み込んだ。
「怖いの」
キョーコは私の方を見て「うん」と口を開かずに言った。手に持っている携帯は開いたままだった。
私はまたぐっとつばを飲み込んだ。
「今だって怖いし、今よりちょっと先の明日も怖い。そんなこと考えてたら、ずっと遠くの未来だって……なんか、逃げ出したくなるよ。ダメかなぁ、そんなの」
私は小さく笑った。ただの照れ隠しで、それ以上の意味はない。するとキョーコは、笑わなくていい、と咎めるように私に言った。私はすぐにその通り従った。
携帯を閉じてポケットにしまったキョーコは、身体をこっちにすり寄せて、もうひと息だけ私との距離を詰めた。
「とうとう白状したな、つかさ」
そして、彼女の顔に笑みが戻った。
私達はお互いに頭を向かい合わせて、ベンチの上に仰向けに寝転がった。空しか見えなかった。風の音はいつまでも絶えずにつづいていた。
「寒いね、つかさ」
「うん」
「眉毛が、カサカサだぁ……」
「……何、それ」
手を頭の方に伸ばした。キョーコの髪が指にふれた。キョーコは何にも反応しなかった。私はずっとさわりつづけた。すると、キョーコの方でも私の髪をさわってきた。指先でつままれたり、手の甲で撫でられたりもした。寒くなってきても、私達は起き上がろうとしなかった。寝てしまうでもなく。
長い時間、ずっとそのままでいた。時折、キョーコが携帯を開いたり閉じたりする音が聞こえてきた。飛行機が飛び去っていく音も、一度耳鳴りのように響いたりした。私はポケットに両手を突っ込んで、首を少し横に曲げて、そのまま目を閉じた。乾燥した空気が顔を撫で付ける。キョーコの指がまた髪にふれた。ふふ、とかすかな笑い声。キョーコの声だった。私も自分の声を聞きたくなって、
「あーっ」
と喉から声を出してみた。びっくりした、何? キョーコは慌てて起き上がる。
良かった、聞こえてるんだ、私の声だって。
何でもないよ、と私は言った。
遠くに折り重なった山の線は、さっき見た時よりももっと曖昧にかすんでいた。標高が高くなるにつれて、次第に薄くぼやけていく。
8
筆箱の中からアルミ製のホッチキスが覗いてて、その表面に私の顔が映った。鏡のようにくっきりと。
退屈な物理の授業、時折窓の外を眺めたりもする。先生が黒板に書く文字はとても整っていてきれいだ。私はちらりとうしろの席を見る。やっぱりキョーコはそこに座って、熱心にノートを取っていた。私も新しいルーズリーフを出して、書き写し始めた。
キョーコが再び学校に通い始めるようになってちょうど一週間たった。結局、キョーコは何も変わらなかった。けれど中西彩香達はキョーコに関わるのをやめた。授業中に消しゴムの粕が飛んでくることもなくなったし、あからさまな悪口を広められることもなくなった。なぜかはわからないし、考えたくもない。
知香ちゃんが昼休みにいつもするように、私を体育館の裏に誘った。
「葉山さんも来る?」
知香ちゃんはおそるおそるといった調子で私の隣にいるキョーコに訊ねた。キョーコは数秒間考えたあと曖昧に頷いた。それから本当にキョーコを交えてお昼を食べたけれど、私と違って、キョーコはすんなりとこの人達になじむ気配がなかった。キョーコ自身が自分の心の深いところを探られるのを意識的に避けているようだった。そんな昼休みが四日もつづくうちに、私達六人の配置はある形でもって落ち着いた。まず、知香ちゃん、三条さん、金平さん、園田さんの四人は、今までのように体育館を背中にしてコンクリートの段差のところに横並びに腰掛ける。そして私とキョーコの二人は、その段差から細い通路を隔てた花壇のふちのところに彼女達に向かい合うようにして腰掛け、お弁当を広げる。ちょうど、テーブルをあいだに挟まない合コンみたく。距離は二メートルと離れていない。会話だってする。キョーコにとっても知香ちゃん達にとっても、それが気楽に話しかけられるちょうど良い距離だった。みんなが横一列に並んだ時より、ぎこちなさが幾分減った。
放課後はキョーコに連れられてパソコン室まで来た。パソコンを使う実習を受けていないので、キョーコはみんなに遅れた分だけ、一人で課題をこなさないといけないらしかった。三十分で終わらせるから、と言った。キョーコはタイピングがとても早い。次々に課題を終わらせていった。本当に三十分で終わってしまった。あとは部屋の真ん中に置かれてあるプリンターでデータを印刷して、先生に提出するだけだ。
「白黒印刷だよね?」
「うん。で、この『配布資料』を選択して」
「はいはい」
印刷を選択すると、数秒後にプリンターが動き出してガタガタと音を立てた。キョーコは印刷物を取りにプリンターのそばへ歩いていった。
窓側のカーテンを開けた。色彩の枯れた冬の始めの空が伸びていた。夕焼けさえ見えない。雲がまた多くなってる。きっと、こうして一日が終わっていくんだろうな。
「つかさ」
呼び掛けられて振り向くと同時に、コピー用紙で作った紙飛行機が目の前に飛んできた。私の胸に当たって、ぽとりと落ちた。
「こないだ空港行ったじゃん」
キョーコがふいに口を開く。
「うん」
「もしさ、あそこでアタシが三万円持っててさ、『つかさ、一緒に東京行こう』って言ったら、アタシについてきてくれた?」
「ん、一人三万円だから六万ないと二人で行けないよ」
「もー、そんなことどうだっていいの! アタシは訊いてるの、ついてきたのか、きてないのか」
窓の外から冷たい風が入ってきて、部屋の中の温暖な空気に溶け込んだ。
私はしばらく黙ってから、「行かない」と言った。
「キョーコも引き止める。二人とも高知に残る」
何かが突然変わったわけじゃない。自分が進む道を悟ったわけでもない。ちっぽけな自分がここにいて、周りを見渡せば、誰かがいたり、いなかったりするだけだ。
「こっち来なよ」
キョーコが手招きして呼んでいる。私は重たい足を動かしてそっちへ向かう。
一歩足を踏み出したその先は、もう私の未来だった。
私もキョーコに紙飛行機の折り方を教えてもらった。窓の外に飛ばそうと思ったけれど、何だか恥ずかしくなって、やめた。数メートル向こうのキョーコに投げた。ひゅうっと風に乗って一直線に飛んで、彼女の手前のパソコンにぶつかった。
その翌日、キョーコは新型インフルエンザで学校を休んだ。なんだか拍子抜けするような出来事だった。宇佐美先生情報によれば、三十八度を超えることもなく症状も軽いものらしい。私はキョーコがいなかったこないだまでのように一日を過ごした。知香ちゃんとぽつりぽつりと話をして、お弁当はあの四人と食べて、放課になるとすぐ家に帰った。
帰り道、ゆるいカーブを描く谷あいの道路を通っていたら、突然キョーコからのメールが届いた。
2009/12/8 16:14
From:葉山恭子
Subject:無題
つかさの見ている空はどう? キレイ?
家の窓からすごくキレイな雲が見えるよ。
羽みたいな。
私は自転車を止めて、空を見上げた。
「あ、ホントだ……」
撮影モードを『風景』に設定して、携帯のカメラを上に向けた。
手がほんの少しかじかんで、思うように動かせない。
シャッターを押した。画面の中の空が一瞬ぼやけて、それから。
初出:神谷京介 Works 2026年1月26日
脱稿:2009年12月