リビング鳥

どうか Living Dori と、発音していただけますか?

「ママ、鳥が死んだよ?」

の、5分前の、お話

夕刻、わたしの家に ふたたびリビング鳥が現れた
真珠みたいな瞳、転がして、わたしを見てた
わたしは動けなくなって、手足がぎしぎし、ざらついた糸で、つながれてるみたいで
リビング鳥は目の前で飛び立って、そのままキッチンへぶつかって、手元灯のガラス、割れてはじけて

そこらじゅうに黒い羽根をまき散らし、割れたガラス、光る砂になって

わたしはひどくおびえて、けいれんして目が覚めた

目が覚めたらまたおんなじリビング またまた現れたリビング鳥
耳をつんざくような叫び声、そして羽ばたいたかと思うと、カーテンに当たって、あえなく落下
床にぼとりと落ちたリビング鳥、そのまま、羽を使い器用に歩いた
影が骨になって動いてるみたいだった

テーブルの下に隠れ、じゅうたんの中へ
縞模様がうねって、もぞもぞ、動いて
わたしはふるえる声で呼びかける
うねりはそこで止まり リビング鳥は隠れたつもり

影が落ちて
わたしの中でちゃんと終わったこと 区切りのついたこと
汗が出てきた、涙はかわいてた

影が結論を告げる
この家から出て 真夜中ずっと自転車 知らない街へ行きたい
そしたら学校行かなくていいかな?
きしむ糸、ふりほどいて、 自由 になれるかな?

じゅうたんから飛び出したリビング鳥
リビングの真ん中、オレンジの照明の笠のそば
そこで宙に浮かんで ぴたりと止まって
そのとき時間も止まってた
わたしの心臓は動かなく 光も止まったから なにも見えなくなったよ

リビング鳥は自ら電気を発した
その音はだんだんおおきくなって、くちばしのあいだから煙が出て
耐え切れずリビング鳥は口を開けた 真っ赤なおおきな口だった
リビング鳥の身体の周り、ビリビリの電気の輪が浮かんで、振動してたよ

壁・床・窓のサッシ ぜんぶ焦げてって
日も落ちて真っ暗な部屋の中、ずーっと電気を発してた
リビング鳥の身体中、白い電気と見開いた真珠の瞳 
けいれんして、 まばたき できないんだってさ
煙が漏れて、青いスパーク

5分後

電気を発し過ぎて、丸焦げになったリビング鳥
からからに乾いたおおきな口、開けて、床に落ちた

わたしは 死んだ と言った

「ママ、鳥が死んだよ?」

そこで夢から覚め、すぐにカーテンを開けた
日射しどこまでも、窓に落ちてく

そしたらさ
そのとき

日射しは黒く濁って、濁ってって、時間が巻き戻る
黒い渦になって、ずっと戻ってく

気がついたらさ

夕刻、リビング鳥がそこにいて、また5分前の、お話


初出:note (2020年頃)